「鴨原くんは一年生の学年主席なんだよ。今年の入学式でも新入生代表を務めたんだ」

傍らで様子を見守っていた歌音が教えてくれる。

一年生で生徒会役員に選出されるだけあって、やはり優秀な生徒のようだ。

「へぇ、すごいですね」

光の純粋な感想に、鴨原は苦笑を見せた。

固い空気がふわりと解れ、驚くほど柔らかな印象に変わる。

「長谷川先輩も主席じゃないですか。それと、私に敬語は不要です。この中では一番年下ですから」

そのセリフに、光は「え?」と声を漏らして視線を移動させた。

にやにやと嫌な笑い方をする仁志と話していた、もう一人の見知らぬ少年とばっちり目が合う。

相手はこれ見よがしに驚愕の表情を作り、あわあわと焦っている。

だが、仁志に力いっぱい背中を叩かれて、転がり出るようにして光のもとへとやって来た。

「あの……」
「神戸 夏輝! クラスは2−D! 次の生徒会書記になった!」

一体なんだと訝れば、相手は覚悟を決めた表情で、放り投げるような自己紹介。

やけに大きな声でぶつ切りの言葉を連ねる様は、明らかに緊張している。

可愛らしいと評してもいい顔は、彼の髪色と同じく真っ赤に染まっており、つり気味の大きな猫目は潤んでいた。

鴨原よりもさらに小柄な神戸を見下ろしながら、光は戸惑いつつ口を開いた。

「長谷川 光、だけど……俺、何かしたか?」
「なっ!? べ、別になにもしてねぇし! むしろオレがしたって言うか! つか、なんでそんなこと言う!?」
「だって挙動不審だから」

神戸の勢いに引きつつも、あっさりと指摘してやれば、鴨原も怪訝な顔で首肯した。

「神戸先輩、どうされたんです。長谷川先輩の言う通り、ちょっとおかしいですよ」
「おおお、おかしくねぇよ!」

どもりながら言われても、説得力は皆無だ。

訳が分からず鴨原と二人、首を傾げていると、笑いを噛み殺しながら仁志がやって来た。

神戸の真っ赤な短髪をわしゃわしゃとかき混ぜながら、「落ち着け」と言う。

「光、あんま追い詰めてやんな。こいつにとっちゃ、お前とまともに話すことは奇跡に近いんだよ」
「何言って……ん? 夏輝?」
「な、なんだよ」

名を繰り返せば、ビクリッと相手の華奢な肩が跳ね上がった。

またしても訪れた既知感。

「夏輝」と言う名に聞き覚えがあったのだ。

あれは学院ホストの渡井 明帆と出会ったときのこと。

自分が仁志のファンで構成された書記方に、受け入れられ始めた理由を知りたくて、渡井を問い詰めた結果、与えられたヒント。

確か――

「書記方筆頭の「夏輝」って……」
「わぁぁぁぁぁぁ!!」
「だから落ち着けって言ってんだろ!」

叫び出した神戸の頭に、仁志の鉄拳が落ちる。

容赦のない一撃に、他の面々も思わず痛みを堪えるような顔になってしまった。

ゴンッという鈍い音は、空耳ではないだろう。




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