顔合わせ。




碌鳴館は生徒会専用の建物だ。

日常的に使用されている執務室の他にも、応接室や会議室、資料室と複数の部屋が設けられており、生徒会業務を十分にこなせるよう配慮がされている。

午前授業の土曜日。

放課後に碌鳴館へと呼び出された光が、出迎えた歌音に案内されたのは、一階にある会議室だった。

大きなホワイトボードを正面に、口の字を描くように机と椅子が並んでいる。

部屋の隅にはプロジェクターやパソコンの周辺機器、コピー機なども並んでおり充実している。

室内には穂積と綾瀬を除く見慣れた生徒会メンバーの他に、初めて見る顔が二人いた。

すでに着席している彼らは、光の登場に視線を向けた。

タイプは異なるものの、どちらも美形と呼ぶに相応しい容姿をしている。

「歌音先輩、彼らは……」
「そう、次期生徒会役員の子たちだよ」

どこか楽しそうに歌音が答えるや、二人の内一人が席を立った。

身長は光よりやや低いくらいだろうか。

真っ新な黒髪の下に並んだ涼しげな瞳は、奥深い闇色をしている。

穂積と同じ色彩ではあるものの、そこに彼の人同様の迫力や威圧感はなく、どちらかと言えば控えめな美しい面立ちをしていた。

彼は光の前で立ち止まると、折り目正しく一礼をした。

「初めまして、一年C組の鴨原 久一と言います。この度、次期生徒会会計に任命されました。よろしくお願いします」
「あ、わざわざご丁寧に……。俺は二年A組の長谷川 光です。えっと、次の副会長をやることになりました」

優等生然とした態度で挨拶をされ、光も慌てて頭を下げる。

きっちりと着こまれた制服に見合った真面目な雰囲気に、記憶の海が波紋を描いたのはそのときだった。

自分はどこかで彼と会ったことがなかったか。

一度抱いた疑念は瞬く間に確信へと変わり、光は鴨原の顔をまじまじと見つめながら、高速で過去の出来事を振り返った。

「あっ……」
「あの、どうかされましたか?」

自分の顔を凝視されて居心地が悪かったのだろう。

訝しげな疑問符に、光は見つけ出した過去を口にした。

「先月末辺りに、碌鳴館の傍ですれ違いましたよね」
「え? 覚えていたんですか」

副会長就任の話を初めて聞かされ困惑していた光は、碌鳴館からの帰り道、一人の生徒とすれ違った。

普段、人気のない場所であることから不思議に思い、顔もよく見えなかったというのに記憶に残っていたのだ。

僅かに驚いた様子で目を瞬かせる鴨原も、どうやら光に気付いていたらしい。

自分は職業柄、必要不可欠な能力なので兎も角、彼の記憶力の良さに感心してしまう。




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