写真。




SIDE:仁志

仁志はアイボリーの布張りソファに行儀よく座っていた。

黒とシルバーに飾られた自室とは異なり、優しい色彩でまとめられた部屋は妙に落ち着かない。

キッチンから漂うコーヒーの豊かな香りに鼻先を撫でられ、胸の鼓動が少しばかり早くなる。

それを紛らわすように、手元のゴールドカードに目を落とした。

光から須藤のことを聞いたのは昨夜である。

自分たちが呑気に後夜祭を楽しんでいる間、友人の身にそんな出来事が起こっていたなんて思いもしなかった。

一人で行動した光を説教しようとした仁志を押しとどめたのは、光が語った内容だ。

自分たちが認知する二年も前から、学院内で出回っていたドラッグ。

売人候補として挙がっているのは、体育教師の佐原 裕也。

生徒会よりもずっと早くから、須藤はインサニティの脅威に気付き調査を行っていたと聞かされ、衝撃を受けずにはいられない。

逼迫したスケジュールのために、生徒会の独自調査は停滞していたので、それらの情報は寝耳に水であった。

光は近いうちに職員寮の佐原の部屋と、体育教官室に忍び込むつもりらしく、生徒会役員が持つゴールドカードを貸すよう頼まれた。

応じなかったのは、次期生徒会役員となる光のカードが、数日後に出来上がる手はずだから、というだけではない。

役員の持つカードは、碌鳴学院内のほとんどのロックを開錠することが出来る。

その特殊性ゆえに、開錠の際に記録される使用履歴は他のデータよりも厳重に監視されているのだ。

たびたび光の部屋に勝手に入っている仁志も、管理事務所から使用理由を何度か問われていた。

友人の部屋ならばともかく、教員の私室や体育教官室に入ったことが発覚しては言い逃れ出来ない。

何かしらの対応策がなければ、佐原のプライベート空間への侵入は困難だった。

自分のカードを指先で弄びながら思索に耽っていた仁志は、人の気配を感じて意識を浮上させた。

「どうかした? 難しい顔をしていたけど」

綾瀬はローテーブルの傍らに膝をつくと、仁志の前に白磁のコーヒーカップを置きながら問うた。

小首を傾げた拍子に、華奢な肩の上を甘栗色の長い髪がさらりと滑る。

きらきらと輝いて見える紅茶色の瞳に、治まったはずの動悸がぶり返すのを感じた。

仁志は部屋の主に小さな笑みを見せて、首を横に振った。

「それより、突然来てすみません」

一日の生徒会業務を終え私服に着替えた後、仁志は綾瀬の私室を訪ねた。

仕事に関する連絡事項があるわけではない。

二人きりの時間が欲しかっただけのことだ。

というのも、恋人同士となってからしばらく経つというのに、二人の関係は以前となんら変わりがないのである。




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