抱かれた疑念。




「光っ!」
「あ、仁志。お疲れ?」

領土の本校舎四階で、ペイント弾の詰まった銃を受け取った光は、ようやく現れた金髪頭の声に背後を振り返った。

外野から黄色い悲鳴が上がるが、二人ともスルー。

目にも入れずに会話を続けた。

「んで疑問系なんだよ……」
「だってステージに出てこなかったし、仕事やってたのか?」
「CG動かしてたのは俺だアホっ!裏方の仕事舐めんじゃねぇよ」

噛み付く仁志の言葉はあまりに意外だ。

聞いてみればあの校舎のグラフィックも、彼の制作らしい。

勝手なイメージながら、不良と電子機器が結びつかず、光は仁志の新たな一面を垣間見た気がした。

仁志は自分の分のモデルガンを委員に貰ってくると、光に視線だけで付いてくるように促す。

廊下に出て階段を下り出す背中を追う。

「開始は今から一分後だ。水軍に居る補佐委員会は、歌音先輩の手駒だから問題ねぇが、他二軍は違う。万が一〔死亡〕しても、とにかく領土まで戻って来い」
「手駒?」
「補佐委員は生徒会の各役職の熱烈なシンパだ。あー行き過ぎたファンクラブ?そんな感じ」
「出たよ、碌鳴ルール……」

そこそこのスピードで走っているのだが、どちらも呼吸一つ乱さない。

平然とした顔で一階まで到達した。

「会計方は歌音先輩の命令には忠実だからな。腹ん中でお前をウザく思っていても、やるこたやるから安全なんだよ」
「うん、あの先輩なら言うこと聞きたくなるかも。人の動かし方を知っていそうだよな」
「そういうことだ。見た目とのギャップ、笑えたろ?」

にやりと笑った相手に、光はそれよりも更に度肝を抜かされた人物を口にする。

「歌音先輩より、副会長?あの人の方が驚いたよ」

スポットライトに照らされた清楚な美人の、ビジュアルとは裏腹な熱い司会は強烈だった。

「綾瀬先輩か」
「すっごい美人なのにテンション高いのな。なんか、仁志と合いそう」

ハイテンション同士で周りは疲れそうだが、きっと当人たちは意気投合だろう。

光の言葉に、仁志は鋭い瞳をやや見開いた後、ふっと頬を緩めた。

「……おだてても何も出ねぇぞ」
「は?」

どこか嬉しそうですらある仁志の表情。

喜怒哀楽を五月蝿いほどはっきりと主張する男にしては、珍しく内面に留めたような笑みに、光は眉根を寄せる。

「なに、どういう―――」

ジリリリリリっ。

非常ベルのような音に邪魔されて、こちらの問いは相手の耳には入らなかった。

「始まったな。取り合えず、お前は逃げ回ってろ!」

言うや否や、仁志は昇降口から姿を見せた人影に向かって、モデルガンのトリガーを引いた。

発砲音はほとんどしない。

本物ではないから当然だけれど、ペイント弾は特攻を仕掛けた二人の生徒の心臓部分に命中する。

真っ白なブレザーにパッと散った赤い塗料に、光はぎょっとした。




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