反省室に残されていたのは、インサニティを模した大量の睡眠薬。

素人目には見分けがつかないほど精巧な偽装が出来るのは、インサニティを熟知している者だけ。

すなわち、売人だ。

銀髪の男が須藤ならば、彼が売人である疑いは消えない。

目的が一致している告げられて、どうして信用できるだろうか。

「……佐原先生がB組の渡井 明帆くんにご執心なのは知っていますか?」
「え?」

突然、出てきた学院ホストの名に、千影は困惑した。

確か野家がそんなことを言っていたはずだが、聞きたいのは佐原の恋愛事情ではない。

何の関係があるか分からず訝しげに見るも、相手は構わず話し続ける。

「佐原先生は渡井くんの担任になった去年から好きだったようで、はた目にも明らかなアプローチを続けていたんです。けれど渡井くんがオチる気配は一向にない。答えは簡単。渡井くんにはすでに心を傾ける相手がいたからです」
「それと何の関係が……」
「どうしても渡井くんを諦めきれない佐原先生は考えました。渡井くんの想い人を潰してしまえばいいと。そしてその想い人は、会長方にとても近しい生徒だったんです」

千影は目を見開いた。

今までずっと不可解に思っていた銀髪の男の行動が、ようやく理解できたのだ。

表情の変化に気付いた須藤は、笑みを深めて答え合わせをする。

「会長方にドラッグを広めれば、確実に渡井くんの想い人にも影響が出る。もちろん、悪い意味で。きっとドラッグの服用を脅迫の材料にして、学院から追い出すつもりだったんでしょう」
「だから、霜月に大量のインサニティを届けた」
「えぇ、それから?」
「佐原の計画は失敗した。渡井の心はその想い人から離れなかったんだ」

教師に導かれて、千影は回答を口にして行く。

筆頭であった霜月の手にインサニティが渡れば、確実に会長方に蔓延する。

渡井の想い人が会長方に近い位置にいたとすれば、被害に遭うのは免れない。

そうなれば退学に追い込むのは容易だ。

佐原は策を講じて邪魔者を排除し、渡井をモノにしようとしたのだ。

しかし、何らかの理由で佐原は渡井を手に入れることが出来なかった。

計画の失敗に激怒した彼は、渡井やその想い人ではなく霜月に害意を向けた。

もしかしたら、最初にインサニティを届けた際に、顔を見られてしまったのかもしれない。

口封じが目的だとすれば、大量の睡眠薬による脅しは絶大な効果がある。

霜月の部屋に侵入したのが佐原 裕也だとすれば、今夜、須藤が銀髪のファントムとなったのは。

「あなたが銀髪のファントムとなって俺の前に現れたのは、俺と接触を持つため。銀髪の男を警戒している俺が、あなたを追いかけないわけがないからだ」

確信の響きが部屋に落とされた。




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