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民衆の上に立つために生まれたような存在だと、不本意ながら認めざるを得ない。
どれだけ人格が破綻していようとも、穂積が生来の支配者であることは紛れもない事実だ。
舞台上で幾多もの視線を集める彼に、食堂で見た無様な姿を忘れそうになった。
自分が喧嘩を売ったのは、これほどの人物だったのか。
尊大でいて品のいい微笑を携えた男が、マイクを口元に運ぶ。
ゆったりとした動作に合わせて、引き潮のように沈黙が訪れる。
『戦友と共に、自軍の誇りを守りきれ。諸君らの武運を祈る。ここにサバイバルゲーム開会を、宣言するっ!』
大気を震撼させる力強い音色に呼応するかの如く、勇ましい喝采が世界を満たした。
雰囲気に圧され呆然とする光の瞳が、そのとき遥か下方にいる黒曜石の眼とぶつかった。
紳士的な笑みに混ざった挑発のそれは、最後列に座す光にのみに、彼の意思をはっきりと伝えてくれた。
『お前が生き残れるか?ゴミ虫』
「どこが、やり過ぎたと思ってるんだよ……絶対に楽しんでる」
歌音たちから教えられたばかりの情報が、より空虚なものに成り果てた。
がっくりと項垂れた少年の口から、盛大なため息。
こっちは売人の調査をしたいのに、どうも上手く行く気がしない。
逸見には悪いが、会計方の護衛も信頼に欠ける。
一体なにが起きるのか。
知る人は、どこにもいない。
危険極まりないゲームが、今。
幕を開けた。
「見てろよ、バ会長」
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