『〔火軍〕の領土は〔西棟〕の一階から三階。〔木軍〕の領土は〔東棟〕の一階から三階。どちらも四階は閉鎖してあるから、くれぐれも入らないように。〔水軍〕は職員室のある二階を閉鎖した本校舎が領土です』

彼の声に対応して、CGグラフィックの校舎が適宜箇所をその軍の色で点滅させた。

『各軍の〔軍旗〕は、これ。この旗が敵に奪われた時点で、その〔軍〕は〔制圧〕されたとみなされ負けとなるので、みんなくれぐれも奪われないように気合を入れて頑張ろうっ!』

映像が切り替わり、中継カメラのビジョンがスクリーンを三分割して映し出される。

各軍を象徴する色の旗は、どうやら領土となる校舎の最上階に備えられるらしい。

光が属する水軍の青い旗は、本校舎四階にセットされていた。

『例年通り、ペイント弾が装填されたモデルガンが、ゲーム開始前に委員から配られるので、敵をばんばん〔死亡〕に追い込んでね。心臓なら一発、他の部位でも三発でノックアウトだし、格闘戦はあんまりオススメしないかな。これ、僕からのアドバイス』

それから、スクリーンの映像がパッパッと切り替わって行く。

画面が四つに区切られ、それぞれ学院の別の場所を撮影しているようだ。

『〔死亡〕した生徒は、速やかに近くの補佐委員に声をかけて下さい。倒した人も、絶対に追い討ちや無茶な攻撃は止めてね。閲覧席ではライヴで校内の様子を見ることが出来るので、何か問題があればすぐに分かるから。もちろん、生徒会では更に細かい範囲で監視しているので……妙な気は起こさないでね?』

声音を低くして言い含める副会長に、大講堂がさらに静まった気がした。

〔ゲスト〕指定された光に降りかかる火の粉を、少しでも少なくしようと考えての発言だとは、当の本人は気付けない。

ただそろそろ終盤となった説明を、しっかりと頭に入れているだけである。

碌鳴での行事はおろか、学校行事と呼ばれる類に参加するのは初めてなので、勝手が分からないのだから、先ほどの逸見ではないが聞きはぐれては困ってしまう。

他の教育機関を体験していたとしても、この特殊過ぎるゲームにはほとんどの人間が戸惑うだろうけれど。

『じゃあ、長い説明はここまで。みんな怪我には十分注意して、ゲームを楽しもう。僕からは以上です。さて、開会の挨拶は彼にしてもらおうか。我らが生徒会長……穂積くん』

鼓膜が破れる。

湧き上がった怒号のような歓喜の声に、光はバッと耳を塞いだ。

「穂積さまぁぁっっ!!」
「こちらを向いて下さいーっ」
「俺がゲストを仕留めてみせますっ!」

綾瀬と入れ替わるように、ステージ中央まで歩み出た男は、遠目でも分かるほどの迫力があった。

完璧な美貌だけではない。

身内から滲み出る絶対的なオーラ。

間近で向き合ったときよりも、更に威力を増した気迫は貫禄さえある。

座席側からぶつけられる大衆のエネルギーを、しっかりと受け止めながら自身の糧へと変えてしまう穂積。

無意識の内に握り締められた手の中で、青い紙がぐしゃぐしゃになっていた。

「死語だけど……カリスマ?」

前言撤回。

彼は頂点に相応しい。




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