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SIDE:穂積
アトラクションをこなした穂積は、パーティを楽しむ生徒たちの間を歩き回っていた。
理由は唯一つ、消えた転校生を探すため。
三人目のマミーも別の人間だと判明したところで、らしくもない苛立たしげな舌打ちが零れた。
脳裏には三十分ほど前に見たビジョンが焼きついている。
吸血鬼の扮装をした男と連れだって会場を出て行った光の姿。
舞台上でマイクを取った穂積は、自分が打ち合わせ通りの言葉を口に出来たことに驚いた。
今にも「ゴミ虫!」と呼び止めてしまいそうなほど、切迫した心境だったのだ。
学院での立場が急上昇中の光に、今さら制裁が下されるとは思っていない。
遠目からでも彼が進んで吸血鬼の男について行っているのは分かったし、危害を加えられるような印象は持たなかった。
ではなぜ、今なお光を探しているのか。
すべては嫉妬と言う下らなくも馬鹿に出来ない、厄介な感情のせいである。
文化祭により、光とクラスメイトたちの距離が縮まったのは知っている。
生徒会入りを要請するために2−Aを訪ねた穂積は、生徒たちと自然に接する光を目にした。
仁志以外に友達らしい友達のなかった彼に、親しい相手が増えるのは喜ばしい。
新生徒会に入ろうという人間が、限られた生徒としか交流を持っていないのでは困るし、これは光本人にとっても碌鳴学院にとっても歓迎すべき変化だ。
理性は確かにそう言っている。
しかしながら、感情は少々落ちつきを欠いていた。
交友範囲の広がった光が、自分の知らない内に知らない輩を特別に想ってしまったら。
恋心を抱く自分よりも、もっとも仲のいい仁志よりも、重要に想う相手を見つけてしまったら。
それが吸血鬼の男でないとは言い切れないのだ。
愚かだとは分かっている。
馬鹿けている、下らないと重々承知している。
けれどどうにもしようがなかった。
恋が人をおかしくする劇薬だと、穂積は身を持って知ったのだ。
諦めずにフロアを探し続ける穂積は、光と共に会場を出たはずの吸血鬼を見つけて、足を止めた。
少女めいた容姿の生徒に囲まれたその男は、甘く整った顔に優しげな笑顔を浮かべている。
確か、今学期から碌鳴に勤務する保健医だ。
人気のある仮装なだけに似た格好をした者は何人もいたが、フルリムの眼鏡をかけた吸血鬼は彼だけで穂積は確信した。
途端に、逸る心が冷静を取り戻す。
光は保健医と共に会場を出たのだ。
となれば、考えられるのは体調不良か怪我のどちらか。
保健医の武がここに戻っているのなら、さほど心配するようなものでもないのだろう。
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