開会宣言。




微かに残る生徒たちの話し声は、室内が暗闇に染まるのと同時に、完全に消え失せた。

『六月校内行事、サバイバルゲーム!』

スピーカーから流れ出た、やけに陽気な声。

パッと舞台の中央にスポットライトが落とされて、光はその白い明かりの中に人影を見つけた。

すらりと細い四肢に、碌鳴の清潔感溢れる制服を品よく着こなす一人の生徒。

背中まで伸びた甘栗色の髪が、ここからでも分かるほど艶やかに輝き、優美に整った美貌と合わさって中性的な美しさを生んでいる。

楚々とした美人の手には、マイクが握られていて、もしやあのハイテンションなアナウンスは彼が?との考えが脳裏を掠めたものの、いいや、まさか。

そうそう予想外な人間がいるはずがない。

ビジュアルとかけ離れているのは歌音くらいだ。と即座に否定する。

だが、現実は光の予想を裏切るのが得意だった。

『碌鳴学院伝統の、軍旗をかけた熱い戦いっ!果たして君は生き残れるかっっ!!』

「マジ?」

スピーカーが再び唱えた文言と連動して、美人の口が動いている。

オマケに気分が高揚したのか、ステージの麗人はぐっと胸の前で拳を握り締めた。

『血と涙と友情のサバイバルを駆け抜けろっ!―――開会式を、始めますっ!』

途端、割れんばかりの拍手と歓声が、大講堂を揺るがした。

「綾瀬さまーっっ!!」
「必ず生き残ってみせますっっ!!」

競うように放たれる言葉の嵐を、相手はにっこりと微笑んでやり過ごす。

光は間抜けにも口を半開きにして、この有様を見つめ続けるばかりだ。

『はい、みんな頑張ってね!開会式の司会進行役は生徒会副会長、綾瀬 滸が勤めさせて頂きます』

生徒の騒ぎも行事のMCも慣れているのか、綾瀬は人情味溢れるトークとは反対に、流れるような動きで一礼。

合わせて、再び拍手が大きくなった。

『まずはルール説明。みんな知っているかもしれないけれど、最後までよく聞いてね?後で分からないと言われても、二度目の説明は面倒だからしたくありません』

あっさり言ってのけた綾瀬の一言に、信じられないと目を丸くする。

仮にも生徒会副会長の座に着く人間の言葉とは思えない。

しかし、生徒たちは反感を覚えるどころか「ちゃんと聞きまーす!」と声を揃えて居住まいを正しているではないか。

割れんばかりの盛況はどこに言ったのか、ぴたりと話し声が止む。

ここは小学校か。

座席が静まったのを確認した綾瀬は、舞台袖に片手で軽く合図を送る。

彼の背後に天井から音もなく降りて来たのは巨大なスクリーン。

パッと青く明滅した後、空から見た視点で作られた、校舎のCG映像が映し出された。

『参加者のみんなは、大講堂に入る前に紙をもらったかな?貰っていない子は、近くの補佐委員にすぐに貰いに行って。……大丈夫?先を続けるよ。紙の色は全部で三色。赤、青、緑。各自手元にある色をチェックしてみて』

光は先ほどから何とはなしに、手の内で弄んでいた紙片に目を落とす。

他の生徒たちも、それぞれ確認しているのが、気配で分かった。

『この色は、君たちがどの〔軍〕に所属するかを示しているんだ。あ、友達と交換してもいいけど、ゲームが始まるまでに済ませてね。面倒なことは嫌だから。赤い紙を持っている子は、〔火軍〕。青は〔水軍〕。緑は〔木軍〕。各軍とも対応する陣地を間違えないように注意して下さい』

スクリーンに目を戻すと、西棟が赤く明滅している。




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