「もうすぐ説明が始まる。今更どこに行くつもりだ?」

ふっと笑みを作った眼鏡の相手に、本能的な恐怖が沸き起こった。

穂積とはまた別の笑顔は、会長の上辺だけなら紳士的で爽やかなものとは異なり、策略家を思わせるものだ。

「いや、お手洗いに用がありまして……」
「説明が終わるまで我慢しろ。聞きはぐれると、転校生のお前は確実に困るだろう?」

疑問系のはずなのに、明らかな強制力を帯びている。

駄目だ。

逃げられない。

「逸見、長谷川くんに謝ることが増えるから、止めて」
「俺は普通に接しているだけだが」
「その『普通』が慣れていない人には怖いんだって、知っているくせに」

歌音の言葉にすんなり従い手を離した逸見に、光は彼らの関係性を察知した。

どうやら立ち位置通り、ポジションは歌音の方が上らしい。

「ごめんね。悪気は……あるんだけど、悪意はないから」
「自覚症状あるのに、やっているんですもんね」

これで悪気さえもないと言われなくてよかった。

外見をいい意味で裏切っている生徒会会計を名乗る少年は、光の指摘に苦笑した。

穏やかな物腰や常識的な発言といい、彼があの穂積と同じ組織に属する人間だとは、到底思えないが。

だからと言って警戒心を解くほど単純ではない。

彼らが自分に接触して来る理由が、まるで分からないのだ。

サバイバルゲームを前に、こちらをどうこうしようと言う気もなさそうで。

二人の真意を見極めるように、光の目が鋭さを宿す。

硬質な雰囲気は、相手方にもきちんと伝わった。

「そう警戒しないで」
「生徒会の方が、俺に何の用ですか?会長の件でしたら、先にあちらが謝罪すべきです」
「うん、僕も同感」
「は?」
「災難だったな、長谷川」
「え?」

しかし、光の投げた牽制は、あっさりと受け止められてしまったのである。

申し訳なさそうに眉尻を下げる歌音と、同情的な逸見。

どういうことだ。

こちらを油断させる狙いなのか?

そう思う反面、彼らの何処にも偽りの臭いがしないことで、少年の頭は疑問符でいっぱいになる。




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