大講堂に入った光は、ぎっしりと詰め込まれた生徒の数よりも、それだけの人間を収容可能な広さに驚いた。

ボサボサ黒髪と眼鏡の姿を見つけるや、出入り口付近の生徒から野次が飛ぶ。

嘲笑が強いのは、これから体験するであろう光の末路を、皆予想出来たからに違いない。

たった一人で本校舎にあるここに赴いた光は、しかし一切の音声を己の世界から追い出すと、ほとんど人の居ない右端最後尾のシートに腰を下ろした。

さながらコンサートホールのような空間では、ありがちな後ろの席取り合戦は行われてはおらず、逆に下方に見える前列側に白いブレザーの肩が連なっていた。

恐らくは、舞台上でアナウンスをする生徒会の面々狙いなのだろう。

今頃舞台裏で忙しなく動き回っているであろう金髪の少年を、哀れまずにはいられない。

今朝も今朝とて、仁志は役員の仕事で光よりも大分早く学校に向かうと、メールが入っていた。

食堂の専用席やゴールドカードの全ロック解除など、学院内での絶対的な権力を保持する傍ら、やはりこなさなければならない仕事は山のようにあるのだ。

それでもゲームにはきっちり参加するので、仕事が終わったら連絡が入る予定になっている。

仁志に張り付いていたい光としては、願ってもいないことだ。

碌鳴の行事が学院を挙げての大規模なイベントであることは、こうして目の当たりにすればよく分かり、ドラッグの売人が動かないはずがない。

学院内で捌いているのならば、毎月行われる行事は絶好の機会。

現在のところ、唯一の売人候補である仁志は、果たして何かアクションを起こすのか。

前髪に隠された光の瞳に、捜査官の輝きが宿った。

『友人』というポジションを、有難くも向こうから用意してくれたのだ。

上手く利用して身辺を探らぬ手はない。

光は入り口で渡された小さな青い紙に目を落としつつ、開始を待った。

と、そのとき。

「長谷川 光くんかな?」
「え?」

かけられた声に、物思いに沈んでいた意識を浮上させる。

壁際の通路に立っていたのは、二人。

随分小柄な生徒の背後に、まるで騎士のように控える長身の生徒。

「はじめまして、僕は3−Aの歌音・アダムス。生徒会会計をやっています」

小柄な生徒は、天使のように愛らしい顔ながら、随分と大人びた調子で礼儀正しい自己紹介をした。

元気なオレンジ頭の前髪を、ピンクのアメピンでポンパにしている姿は、大きな瞳も手伝って彼の年齢をぐっと年下に感じさせてはいたけれど、それにしては纏う雰囲気は落ち着いている。

「あ、はじめまし……え、生徒会?」

外見と口調のギャップにやや混乱気味の光が、歌音の言葉に含まれたキーワードにぎょっと顔を強張らせたのは、天使が口を開く一瞬前だ。

「うん。後ろの彼は逸見 要。生徒会補佐委員会委員長で、僕の友人」

眼鏡の面を軽く下げて挨拶をした長身の紹介にも、嫌な単語。

「俺、ちょっと急用が……」

咄嗟に腰を上げかけた光だったが、しかし逸見に肩を押されて座席にリターン。

華奢な身体はあっさりとシートに埋まる。




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