木崎の端正な面には緊張感が滲み、真剣な表情で口を開く。

「体育祭の日、校舎内を見回ったんだよ。そのときに、西棟四階の廊下端にある消化器の裏に、インサニティが張り付けられているのを見つけた」
「それって……じゃあ佐原が?」
「関係者と見て間違いないだろう。……見つけた後、何日かは張り込んでたんだけどな。流石に保健医がずっと留守ってわけにもいかなくて、色々見逃したらしい」

売人を警戒させないため、見つけたインサニティをそのままにして来た木崎は、取引を成功させてしまったのが悔しいのか眉を寄せて難しい顔になる。

木崎がインサニティを見つけたのが、体育祭当日の昼間。

翌日の昼過ぎに光は佐原を目撃し、さらにその翌日に現場へ赴いたときには、インサニティは消えていた。

そうして発見日から数日間、張り込みをしていた木崎が不審者を見なかったのなら、佐原が何らかの形で取引に関与している可能性は高い。

「俺が見つけたインサニティを誰が消化器に張り付け、誰が回収して行ったのかは分からないから、佐原が売人なのか購入者なのかは不明だが、霜月以外のルート且つ学院内で捌かれているインサニティなのは間違いない。売人に近づいたな」

これまでの調査で、学院内の生徒が服用していたドラッグの多くは、大量所持していた霜月から流れたもので、それ以外は城下町の小売から購入したものだと判明している。

校内で転売している人間が見つかっていない現状を鑑みると、学院内で急速に品薄状態になっているインサニティの売買を現在も行えるのは売人だけだ。

暗礁に乗り上げていた調査の進展に、しかし千影は複雑な顔を作った。

「どうした?」

当面のターゲットが絞れたのに喜ばないのかと問われ、言いづらそうにもう一つの新情報を音にした。

「あのさ、実は俺がそのとき見たのって、佐原だけじゃないんだよね」
「売人と購入者、両方見たかもしれないってことか」
「いや、そうなのかどうかは分からないんだけど……その、須藤に会って」
「須藤 恵?」

呟かれたフルネームに首肯する。

「須藤の資料室が西棟四階にあって、そこで課題の採点してたらしい。資料室の様子に不審なところはなかったけど、声をかけて来たタイミングが良過ぎたんだ」

佐原の行動に意識を注いでいた少年は、須藤の出現によって尾行対象の監視を強制的に中止させられた。

あの数学教師が、消化器から金を取るのかドラッグを取るのか。

確認できていたら調査はもっと進んだはず。

意図的だと疑わぬ方がおかしい。

何より。

「須藤は俺の正体に気付いている可能性がある」
「っ、調査員だってバレたのか」

千影の言葉に、木崎はサッと顔色を変えた。

潜入調査おいて、素姓の露見は絶対に回避しなければならないのだから当然だ。

正体発覚のリスクを骨身に染みて理解している男は、最悪のパターンを想定しているに違いない。




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