似て非なるもの。




自室の扉を開けると、リビングの灯りが点いていて、光は「またか」と胸中だけで呟いた。

今朝、部屋を後にするときに、きちんと電気は消したのだから、この状態の理由で思いつくのは一つきりだ。

正体を明かした今となっては、見られて困るものもないので放置しているが、立派な不法侵入だろう。

リビングの白いソファに我が物顔で寝転んでいる友人を見つけ、これ見よがしの嘆息を落とした。

「……ただいま、仁志」
「おう、お帰り」
「当然のように言うなよな」
「お前こそ、今更なこと言うなよ」

あきれ顔で背もたれに腰を掛ければ、仁志は金髪頭をワシワシと掻きながら身を起こした。

生徒会特権の一つ、全室開錠可能なゴールドカードによる無断入室は、これで何度目のことか。

彼の言う通り「今更」ではあるが、嫌味くらいは言ってもいいはずだ。

制服のネクタイを緩めつつ、諦めの息を吐き出した。

「碌鳴館に行ってたんだろ?」
「うん、呼び出されてさ」
「早いよな、もう選挙の時期になっちまった」

時間の経過をしみじみと語る相手に違和感を覚え、目を向けると、口角を吊った仁志が待ち構えていた。

含みのある楽しげな笑みにピンと来て、恨めしい気持ちが湧いてくる。

光は咎めるように睨みつけた。

「知ってたんだろ、このこと」
「当然」
「いつ聞いたんだよ」
「体育祭前辺りだな。会長に新生徒会長に推薦するって言われて、お前のことも聞いた」
「で、テニスの特別試合ってわけか」

先日の体育祭で起こった不可解な一件がこれで分かった。

綾瀬との関係進展で有頂天になっていた仁志に、お灸を据える目的で駆り出された特別試合は、彼が実力を抑えてプレイしたために、光の身体能力が強調されてしまった。

結果、運動音痴のインドア派に見られていた転校生は、文武両道として学院生たちに新たな認識を持たれることに。

あのときは、なぜ仁志が大々的な「ライバル宣言」をしたにも関わらず、本気を出さなかったのか不思議だったけれど、まさか光の実力をPRするためだけでなく、こんな裏があったとは思いもよらない。

特別試合そのものは、あのときの仁志の反応を見る限り、前もって計画していたわけではなさそうだが、彼が穂積の意を汲み取って力加減を調節したのは間違いなかった。

「騙して悪かった」
「もう終わったことだからいい。けどさ、冷静に考えて俺が副会長なんておかしいだろ?会長のこと止めろよな」
「なんでだ?別におかしくねぇだろ」

平然とした様子で首を捻られ、眩暈がする。

綾瀬、逸見、歌音、そして仁志。

どうして誰も反対しないのだろう。

「おかしいから、普通に考えて」
「問題ねぇだろ。大体、お前が副会長じゃなきゃ、俺だって会長職を受ける気にならねぇし」
「は?」
「会長なんて面倒くせぇって思ってたけど、お前とならやってもいいかと思ったんだよ」
「……」




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