◇
「長谷川、俺たちの家柄が分かるか?」
突然の質問に、光は少しばかり戸惑った。
意図が読めずに答えあぐねる。
「俺も綾瀬も、歌音も仁志も、現在の生徒会に所属する人間は、皆学院内でも有数の名家出身だ」
「……」
確かに穂積の家は他の追随を許さぬほど強大な力を持っているだろうし、その彼に肩を並べている他の役員たちも相応の家柄であるのだと推察するのは容易だ。
しかし、それが光の問いにどう関係して来るのか分からない。
怪訝に思いながら穂積を見返していると、相手はすっと表情を改めた。
「現在、学院でドラッグが流行しているのは知っているか」
「……はい」
制服の下で心臓がどくんっと高鳴る。
過去、光は二度もインサニティを使用した事件に遭遇しているが、穂積は一般生徒であることを理由にドラッグ問題への干渉を許さなかった。
今になって彼がその話題を持ち出すのは、なぜだろう。
動揺する胸中を無表情で覆い隠しながら、少年は話の続きを促した。
「流行した一因は、俺たちにもあると考えている」
「え?」
穂積の口にした言葉は、予想もしないものだった。
霜月 哉琉の大量所持により、恐ろしいほど蔓延していたインサニティ。
その原因の一つに、生徒会が絡んでいるなどあり得ない。
彼らは膨大な通常業務の傍ら、懸命に独自調査を進めていたし、学院の現状に誰よりも心を痛めていたはずだ。
どうしてそんな結論に達したのか、まるで理解できなくて、光は眼鏡の下の瞳を揺らした。
与えられたのは、的確な説明。
「過去、生徒会役員に起用された者の大半が高い家柄だったせいで、一般生徒との間に絶対的な境界線が引かれてしまった。俺たち生徒会は周囲から騒がれていても、生徒たちの中に入って行くことは出来ない」
「あ……」
「生徒会と一般生徒の距離がもっと緊密だったなら、ドラッグの件は早期に発覚したかもしれない。この問題がここまで深刻化したのは、俺たちと生徒の間に溝があったからだ」
穂積の言う通りだ。
生徒会の面々は生徒たちに尊敬と畏怖と情念を注がれてはいても、仲間として扱われているようには思えない。
自分たちとは一線を画す特別な存在として認知されており、それが補佐委員会や親衛隊と言うファン組織を作り上げた。
生徒たちにとって生徒会は、憧れの対象ではあっても気安く交流を持てる相手ではなく、ましてやドラッグの使用をうっかりとでも漏らせるような関係ではないのだ。
両者に親密な交流がないため発覚は遅れ、対応は後手になっていると、穂積は言っていた。
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