穂積は自分を彼の世界に引き込むために、動き始めたのか。

いやまさか。

たかだか生徒会役員になったくらいで、二人の間に横たわる大きな溝が埋まるわけもない。

彼との世界の違いは絶対で、いくら穂積でもそう易々と変革をもたらすなど不可能だ。

光が穂積の横に立つ日は訪れない。

冷静に考えれば分かるのに、少年を真っ直ぐに見つめ返す男の漆黒は、恐ろしいほどに真剣で自信に満ち満ちていた。

「あのね、穂積くんも理由があって長谷川くんを推したんだよ。断る前に話だけでも聞いてもらえないかな?」

知らず漂っていた緊迫感を霧散するように、自分のデスクに着いていた歌音が、やんわりと場を取りなした。

はっと我に返って黒曜石と視線の交わりを断ち切る。

追うように刺さる眼差しを無視して歌音を振り返り、動揺しかけた心を立て直しつつ首肯をした。

歌音に言われては、無碍にも出来ない。

「碌鳴学院の選挙では、次の生徒会長だけが選ばれるのは知っているよね。新しい役員は新しい生徒会長の指名によって決まる」
「はい、知っています」
「だから今、穂積くんが言った要請に強制力はないんだ」
「あ……」

そうだ。

生徒会役員が会長による指名制ならば、現行生徒会長である穂積が何を言おうと、具体的な力は発生しないはず。

あまりに堂々と言い切られたせいで、まったく気付けなかった。

「昨日はあぁ言ったけれど、アッキーが次の生徒会長になるのが確定しているわけでもないんだよ」
「選挙ですもんね。仁志は会長に選ばれそうな気がしますけど」

どんなに光が不安に思っていても、仁志は必ず圧倒的得票数で生徒会長に就任するだろう。

学院での人気を鑑みれば、不安を覚える光のような人間の方が希少に違いない。

「よっぽど人気のある対立候補が出なければ、ですけど」
「うん。だからアッキーは選ばれるんだ」
「はい?」
「対立候補はね、いないんだよ」
「そうなんですか?」

苦笑交じりの歌音に、内心だけで首を傾げる。

対立候補がいないとは、どういうことだ。

選挙と言うくらいなのだから、立候補者が何名か出馬するものと考えていたのだが。

光の疑問を解消したのは、背中を向けていた相手だった。

「俺が仁志を推薦するからな」
「推薦、ですか?あぁ、なるほど……」

対立候補が出ないわけだ。

続く言葉をどうにか喉元で押し留めた。




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