またしても歌音に後押しされた光は、改めて彼の内面に感心していた。

頭ごなしに説教をするでもなく、得意げに主張するでもない。

やんわりと道を提示してくれる思いやりは、本当に優しい人間である表れだ。

導くと言う点では、学院を纏め上げる生徒会長様にも負けていない。

むしろ、日ごろの言動を鑑みれば、穂積よりもよほど生徒会長に向いているのではないか。

歌音と初めて出会ったときと同じようなことを考えていると、ふと思い出した。

「そう言えば、そろそろ生徒会長選挙ですね」

未だに学院内の行事は把握しきれていないが、先月の終わりに渡井が説明してくれたのは記憶に残っていた。

碌鳴では十一月の頭に投票が行われ、次代を担う生徒会長が選出される。

新しい生徒会長の指名によって各役職が決まり、十二月いっぱいまで現行生徒会の下、仕事を覚えるのだと言う。

生徒会にかかる負担が大きい、碌鳴学院ならではのシステムだ。

「次の会長には誰が選ばれるんでしょう。穂積会長の後じゃ、荷が重そうですよね」

傲慢魔王であるのは確かだが、彼ほど勤勉に役職をこなしている人もいない。

穂積の真面目な部分も知っている光は、純粋に次の生徒会長を不憫に思ったのだが、対する歌音は何故だか苦笑いを浮かべている。

「歌音先輩?」
「そうでもないと思うよ」
「あ、もしかして歌音先輩は、次の生徒会長候補を知っているんですか?」
「うん、まぁ……」

複雑そうに曖昧な微笑みを返された瞬間、駆け抜けたのは嫌な予感。

脳裏を過った可能性は、やけに派手な金色をしていて頬が引きつる。

まさか、まさか。

あり得ないと思いつつも、聞かずにはいられなくて、光は恐る恐る訊ねた。

「あの、仁志……なんてことはない、ですよね?」
「……」
「うそっ!?」

沈黙は、何にも勝る肯定だった。

光の中に定着した生徒会長のイメージは、穂積 真昼だ。

その彼と対極を成す人物が、後任を務めるかもしれないなんて、信じられない。

仁志の実力が穂積に劣っていると言うつもりはないけれど、喜怒哀楽がジェットコースターのように変化する友人に、学院を統率できるのか心配になる。

いつもの荒れた言葉遣いで、就任挨拶をしているイメージが脳内に広がり、光は一抹の不安を覚えた。

「仁志が、生徒会長……」
「そ、そんなに心配しなくても、アッキーなら立派に会長職をやってくれるよ」
「本当にそう思います?俺には、あいつが生徒会長の椅子に行儀よく座って、大人しくハンコ押している姿が想像出来ません」
「……」
「……」

訪れた不自然な静寂は、彼らの心が一つになったことを教えてくれた。

「……せめて副会長がまともな人であることを祈っとこう」
「たぶん、大丈夫だと思うよ」
「え?」

酷く疲れた様子で嘆息した少年は、小さく呟かれた先輩のセリフに首を傾げた。

生徒会長候補を告げたときと、よく似た顔をした歌音の眼差しは、なぜか哀れむような色を湛えている。

その理由が判明するのは、翌日の話である。




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