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光の秘密は、歌音の秘密とは違う。
探偵事務所の調査員である事実が露見すれば、何がどう影響して今後の仕事に支障を来すのかまるで分からない。
これまでも、この先も、誰に知られてもならない秘密を、本当に諦めてもいい?
見目の悪い乱れた黒髪に隠された端麗な面を、さらに険しくさせたときだった。
「でも、これはあくまで僕の秘密」
「へ?」
「僕の、僕だけの秘密との向き合い方」
不意を突かれてハッと顔を上げたら、どこか楽しそうな表情の歌音が待ち伏せしていた。
にっこりと笑う様は、内面の成熟さとは裏腹な、子供のように楽しげなものだ。
「長谷川くんには、長谷川くんだけの向き合い方があるんじゃないかな」
「俺だけの……」
「僕の方法に則る必要なんかないんだ。自分にあった方法で、自分が後悔をしないように、秘密と向き合って行けばいいんだよ」
例え同じ問題に遭遇しても、対応の仕方は人それぞれ。
抱えるものも、取り巻く環境も、自分とは違う他人だと言うのに、どうして歌音の方法が最善だと感じたのか。
誰かが選ぶ手段を、自分も選ばなければならない理由はない。
考えずとも分かることなのに、今の今まで気付けなかった。
光の秘密保持は絶対事項。
仮に須藤が真相を握っていたとしても、自ら差し出すなんて言語道断。
己が取るべき行動は、口を噤むこと。
今はまだ、誰にも秘密を明かしてはならない。
これが光の、光だけの秘密との向き合い方だ。
「そうですね」
「うん?」
「本当に、歌音先輩の言う通りです」
狭まっていた視野が一気に広がるのを感じながら、少年はしっかりとした口調で、歌音の碧眼へ笑顔を返した。
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