我に返った面々は、先ほどまでの醜態を思い出し気不味そうに沈黙する。

全校生徒を代表する、選ばれた人間たちが繰り広げるにしては、あまりに幼稚過ぎる騒ぎだったと、皆分からぬほど愚かではない。

仁志でさえ視線を床に落とす始末だ。

そんな仲間たちの姿を、精神的に成熟している者特有の、包括するような眼差しで見つめた歌音は、穏やかに微笑む。

「アッキーは扉の修繕を事務所に依頼。綾瀬くんは参加者申請書の受理手続き。……穂積くんは、少し聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

このときばかりは、『アッキー』と呼ばれることに抗議の声を上げることも出来ず、仁志は自分のデスクの電話に向かう。

綾瀬もペコリと頭を下げたあと、自分の仕事に戻って行った。

僅かに顔を顰めた穂積の前まで足を進めた歌音は、未だ部屋の外で待機している生徒を呼び寄せる。

「逸見、もう入っても平気だよ。待たせてごめんね」

長身の生徒は、端整な面立ちにフレームレスの眼鏡をかけた、美形である。

目を上げた穂積には、それだけで歌音が何を話すのか察しがついたらしい。

常にある笑みを作りながらも、その瞳には不機嫌な色が浮かんでいた。

「逸見 要か……なるほど」
「どうも。話が早くて助かります」

策士を思わせる笑顔で応じた逸見を待って、並ぶとより一層小柄が協調される歌音が、口火を切った。

「今回のこと、さっきの様子から見ると皆から責められたみたいだね」
「……」
「近年、減少傾向にあったこのイベントの参加者数回復も狙ってのことだと思うけど、やはり長谷川くんが危険なことに代わりない。穂積くんだって分かってるでしょう?」
「あぁ。だが、この程度で消えるようなら、『碌鳴の生徒会長』に楯突く資格はない」

きっぱりと言い切った穂積に、ふざけた気配は微塵もない。

書類を手繰りながら、受話器を置きながら。

綾瀬も仁志も、二人のやり取りに神経を傾ける。

「そうだね。確かに、絶対的支配者に逆らった人間には、次の芽を発生させないためにも、適度な制裁は必要だと思うよ。でなければ組織が成り立たない」

明日の日本を背負った、碌鳴学院の生徒ならではの思考。

民衆を治めるには、企業をまとめるには、何をどうすればいいのか。

学院と言う小社会で彼らは学んで来た。

一人の謀反を許せば、必ず追従者は現れる。

内部の綻びはやがて組織を崩壊に導き、終末を促す。

だからこそ、クーデター防止のためにも、然るべき制裁は下さなくてはならないのだ。

そこに穂積の私情がないかと問われれば、長谷川 光の件に関しては、否と断言することは出来ない。

自分の非や我侭を差し挟んでのことと自覚している穂積は、歌音の意見を退ける気も、また妨害するつもりもなかった。

「けど、あまりに危険過ぎる事態だと、君は知ってるはずだ。生徒会補佐、会計方は、長谷川 光のサバイバルゲーム中の警護に当たる」
「私が陣頭指揮を執って、秘密裏に警護します」

歌音の言葉を受けて、逸見が後を引き取る。




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