「俺にあれだけのことをしたんだ。これくらいで潰れるようなら、笑い話にもならない」
「穂積……」
「無事に生き残ってもらわなければ、つまらないだろう?長谷川が言ったんだぞ。方法を考えろ―――とな」
「君、どうしてそんな……」

『どうしてそんな、楽しそうなの?』

綾瀬の思いが音になることは、終ぞなかった。

「てんめぇっ、このバ会長がっっ!!」

凄まじい衝撃と共に、生徒会室の見事な扉が蹴り開けられたのだ。

まるでヤクザの『出入り』。

ズカズカと足音荒く入って来た侵入者、もとい仁志の眉は逆ハの字になっている。

今にも穂積の胸倉を掴みかからん勢いで、怒鳴り散らした。

「テメェのせいで光がヤバイことになってんじゃねぇかよっ!!あぁ?おい、コラ。ゲストなんて小細工仕掛けやがって、ふざけてんじゃねぇぞっ!!一発殴らせろっ!」
「お断りだな。どこの不良だ、お前は」
「に、仁志くん、落ち着いて!そうだよ、うちの制服が泣くよ……あ、いや、間違えた」

怒り心頭の仁志に、それを五月蝿そうにあしらう穂積。更には宥め役に回ろうとした綾瀬が余計な一言を口に出して狼狽する。

軽いパニック状態in生徒会室だ。

「言葉遣い悪けりゃ、みんな不良かよっ!どこの頑固親父だテメェはっ。つーか、問題はそこじゃねぇし。どうしてくれんだよっ!せっかく人が苦心して光の参加を止めさせようとしてたのによぉ、テメェのせいで強制参加だぞゴラっ!!」
「お前はどこから見ても不良だろう。健康優良児ではありそうだが」
「穂積、火に油注がないでよっ!仁志くんも、ほら落ち着いて。言葉遣い云々よりも、外見が不良っぽいのは仕方のないこと……あぁ、また間違えたっ!ごめん、今の嘘」

最早、何がなんだか分からない。

ぐだぐだとは、このことを言うに違いない……と諦観の目で事態を見守っていたのは、生徒会室の外で入るに入れず動きを停止させている長身の男子生徒。

その前では、オレンジ頭の愛らしい天使が、控えめに笑い声を零している。

「歌音、ここは出直した方がいいんじゃないか?」
「これを放っておいたら、パッヘルベルのカノンが鳴るまで、延々と続いちゃうもの」

そう言って、外見とは間逆の大人びた笑顔で見上げてきた歌音に、男子生徒はため息を吐く。

天使は最後にもう一度笑ってから、扉のなくなった混沌の中へと入って行く。

「いいかっ!?今すぐ、光のゲスト指定を撤回しろっ!今すぐだっ!!アイツは自分で喧嘩出来るとかほざいてるけどなぁ、あの見た目で出来るわきゃねぇんだよっ!頭の中の妄想に間違いねぇんだ。バ会長もそれくらい分かってんだろっ!?」
「……お前、本当に長谷川を友達と思っているのか?」
「ったりめぇだろうが、舐めてんのかっ!あぁ?テメェと違って、俺は外見よりも性格グルメなんだよっ!!」
「仁志くん、意味が分からないよ……って言うか、軽く君失礼だよね」
「はぁっ?俺がいつ失礼なこと……って綾瀬先輩っ!?いつからそこにっ!!」
「今まで無視されてたのかと思ったけど、気付かれてなかっただけなんだ……少し悲しい」
「や、けど、その、すいませんでしたっ!」
「おい、前から言いたかったんだが、お前綾瀬と俺に対する腰の低さが、明らかに違うだろ」
「うっせ、黙れバ会長!テメェが余計なことしくさったせいで……」
「人徳だよ、穂積……と、あーまた言い過ぎた。許して、本当にゴメン!」

続く続く、連綿たるカオス。

ズレ始めた論旨を正す者は、この三人の中には存在しない。

だから。

「はい、全員ストップしてね」

パンッと乾いた音は、白い掌が一つ、打ち鳴らされたためだ。

騒然としていた室内が、ぴたりと静けさを取り戻す。

あれほどの言い争いの中でも、決して紛れることのなかった終了の合図は、歌音によるものだった。




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