明かされた実力。
「嘘だろ……」
生徒の一人が零した呟きは、突如始まった特別試合を観戦していた、すべての人間の声だ。
たった今、コールされた結果がもたらした衝撃は、あまりに大きい。
ネット越しに握手を交わす選手二人を、暫時呆然と見つめたあと、それまでの静寂の反動のように歓声が爆発した。
「仁志様おめでとうございます!!」
「勝って下さると信じてましたぁっ」
「長谷川って何者だよ?!」
「未経験で7−5とか、あり得ないだろ……」
「て、転校生なんかに仁志様が負けるわけないだろっ」
様々な感想が好き放題に喚かれているために、コートの騒ぎは尋常ではない。
試合の最中、他の競技を観戦していた生徒たちまで駆けつけて、観客席はおろかコートの周囲にまでギャラリーの壁が出来上がっている。
負けはしたものの、試合を観ていた誰もの予想を遥かに上回る実力を示した当の少年は、仁志の対戦相手として紹介されたとき以上の騒々しさに、耳栓が欲しいと心から思った。
「ウルサイ」
「うるさくもなるっつーの。お前、マジですげぇぞ」
勝者からの賛辞に、光はチラリと相手を窺った。
「……手加減しないんじゃなかったのかよ」
「してねぇだろ」
「本気でもなかったくせに、よく言う」
にやりと口端を持ち上げた男に、やはりそうかと息を吐いた。
最初のサービスエースで、あれほど対抗心を燃やして見せた仁志だが、彼が本来の力の半分ほども出していないことくらい、眼前の姿を目にすれば明らかだ。
額から汗を流してはいるものの、連戦による疲労はまったく見られず、呼吸だって肩で息をするこちらと比べればずっと落ち着いている。
試合終了直後でこうも平然とされては、観察力に優れた光が気付かない方が難しいというもの。
ゲーム中は試合に必死で考える余裕もなかったが、冷静になればすぐに分かる。
いくら基礎体力もあり、特異なコピー能力を持っていたとしても、所詮は初心者。
本試合の方であっさりと優勝して見せた仁志に、敵うはずもない。
試合という形を保てている時点で、疑念を抱くべきだった。
「悪ぃ」
「本気で相手された方が困ったから、いいよ。けど、どういうつもりで?」
笑みを崩して、心底申し訳なさそうな顔での謝罪に、苦笑しつつ首を振る。
確かにゲーム自体に手を抜くことはなかったが、光とて特別試合への参戦は半分が悪ふざけ。
もう半分は色呆けしきった仁志に対する腹立ちからだ。
本気で相手をしなかったからと言って、彼を責めるつもりなど毛頭ないし権利もない。
仁志が謝る必要性は皆無だ。
ただ、なぜあのように大袈裟なライバル宣告をし、わざわざ実力を抑えて光と接戦を繰り広げたのかが、まったく解せない。
まるで観客のためにショーを披露したようではないか。
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