SIDE:仁志

「仁志さまー、おめでとうございます!」
「素敵でしたっ」
「流石!お見事!!」

コートに響き渡る喝采に、仁志は額から落ちる汗を拭いつつ、ラケットを掲げて上機嫌に応えた。

最近の自分は恐ろしいほどに調子がいい。

食堂で注文した料理は、いつもの三倍速くテーブルに来るし、振り回されていた先月に比べて、二学期の超過密スケジュールは思い通りにこなせている。

得意のテニスも、経験者の多い学院において難なく優勝を果たした。

それもこれも、すべては綾瀬と恋人同士になってからだ。

仕事のせいで二人きりの時間は中々取れないが、碌鳴館に行けば必ず顔を合わせることが出来るし、プライベートな会話は寮への帰り道や携帯電話で補える。

たおやかで優美な彼の人が、自分の想いを受け入れ、そうして返してくれたという事実は、仁志の絶好調の要因に間違いなかった。

体育祭の競技の一つと言うことで、テニスにも表彰式はない。

運営本部には二年在籍の仁志が優勝した旨が伝えられ、加点された各学年の成績がアナウンスされる予定になっている。

それよりも早く、綾瀬に優勝を伝えたくて、仁志はベンチに放置していた携帯電話を手に取ろうとして固まった。

『素晴らしい試合だった、仁志 秋吉くん』

今なお続く歓声を遮るように、会場のスピーカーから発せられたのは、大多数にとっては心地よい低音。

仁志にとっては、悪い予感をもたらす悪魔の囁きである。

油の切れたブリキ細工よろしく、ぎこちない動きでコート脇の放送席へと視線を動かせば、予想通りの人物――生徒会長様がこちらを見据えていた。

言われ慣れぬ「くん」付に、ぞわわっと鳥肌が立つ。

『見事に優勝を果たした君には、特別試合への挑戦権が与えられる』
「はぁ!?ちょっと待てよ、んな話聞いてねぇぞっ」
『特別ルールにより、試合は1セットマッチ。この試合に勝てば、優勝得点の100ポイントに加えて、50ポイントを加点する』

突然の追加試合に、観客も騒然となる。

いくらテニス部に所属する生徒の出場が認められていないと言っても、試合に臨んだのは皆それなりにテニスに自信を持っている実力者たちだ。

それらを圧倒的な実力で制した仁志に敵う者など、そう簡単には見つからないだろう。

一体、誰が対戦相手となるのか、口々に心当たりの名前を出しては首を横に振る。

ギャラリーの混乱に反比例して、当の仁志は冷静を取り戻し始めた。

穂積の独断はいつものこと。

今更、取り乱すほどでもなかった。

連戦を行って来た身体には、相当の疲労がある。

追加の50ポイントは二年チームにとっては魅力的だが、明日は体育祭の片づけもあるのだし、あまり無理はしたくない。

落ち着いて考慮した結果、仁志は「断る」の一言を口にしようとしたのだが。

『特別試合の勝者には、賞品として「綾瀬 滸のキス」が贈られるが。どうする?』




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