露骨な感情の表出は普段ならば見逃さない突っ込みポイント。

にも関わらず、穂積は嫌味一つ言うことなく真面目な調子を崩さない。

幼馴染が関係していては、流石に心配なのかもしれない。

真っ直ぐに仁志の鋭い瞳を見据えて紡がれる、穂積の言葉に光も口を噤んだ。

「お前がそんな状態のままじゃ、綾瀬だって安心出来ない。完全に捕まえる気があるなら、もう少しちゃんと――」
「なんだよ」
「……何がだ」

助言を遮った仁志の面には、寸前までの驚愕ではなく、得意げな笑みが浮かんでいる。

気迫が満ち満ちた風情で胸を逸らす彼に、光も穂積も怪訝な表情だ。

「仁志、どうしたんだよ。気持ち悪いぞ」
「うるせぇ、美形にキモいとか言ってんじゃねぇよ。笑いたくもなるだろ?」
「何が?」
「何って、あの会長が俺と綾瀬先輩のこと気遣ってるんだぞ!」
「は?」
「……」

目を爛々と煌めかせた仁志の背後には、栄華を極めた者にのみ現われるような眩いオーラが発散されている。

平生から己に絶対の自信を有する仁志だが、今は普段の数倍だ。

「そう心配すんなって。俺らなら何の心配いらねぇし、すげぇ順調だから」
「……」
「なんつーの?念願叶って両想いになった俺らの前には、障害となるものなんて一つもねぇってくらい?」
「……単細胞が」

チッと舌打ち混じりの悪態に気付いていないのか、或いは気付いていながらスルーしているのか、親切心を無碍にされた穂積の機嫌が急落していると言うに、仁志は一向に気にしていない。

完全に調子に乗っている。

恋の成就は、ここまで人を変えてしまうものなのか。

対照的な上機嫌で穂積の肩をバシバシと叩く友人を、薄ら寒い思いで傍観していると、突然その矛先はこちらに向いた。

「な、光!お前もそう思うだろ?」
「や、ごめん、聞いてなか――」
「俺と綾瀬先輩って傍目から見てもすげぇいい感じだろって話」
「……あぁ、お似合いっていう――」
「だろ!?いや分かってんだよ、知ってんだよ、んなこと。けど、他の生徒はまだ俺らが付き合い始めたって知らねぇから、面倒くせぇんだよな」
「大変だな……」
「だからな、行事とか人目があるときは、なるべく傍にいて他の奴らにアピールしようと思うんだよ。綾瀬先輩は俺のだってな」
「……」
「そして、俺は綾瀬先輩のって?そうすりゃ馬鹿な連中を牽制できるし、集会開いて発表する手間はぶけるし」

異様なほどのハイテンションで、延々と語られる惚気話。

光たちが相槌すらしなくても、まったく頓着していないのは、完全に妄想の世界へ旅立っている証拠だ。

はっきり言おう。

癇に障る。

煮ても焼いても食えぬどうでもいいトークに、光は拳を握り締めた。

迷惑極まりない男が妄言をストップしたのは、次の試合の出場選手としてコールされてから。

「お、もう出番か。今日はテニスも調子いいんだよな。人生の絶頂期か、俺」
「残るは下り坂だな」
「他人の幸せを僻んでんじゃねぇよ、バ会長。俺の実力しっかり観てけよ!」

蓄積された苛立ちに、どうにか耐えていた光たちにとって、最後の一言は止めになった。

意気揚々とコートへ入って行く姿に、腹が立つ。

「……あんなに楽観的でしたっけ」
「……馬鹿は馬鹿だったが、悪化したな」
「……」
「……長谷川、基礎体力はあるか」
「そこそこ」
「テニスの経験は?」
「ルールは知ってるけど、やったことはない」
「なら次の試合、仁志と相手選手の動きをよく見ていろ」

何事かと横目を流した少年は、魔王さながらの笑いを滲ませた男に、彼の意図を察した。




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