特別試合。




弓道場からテニスコートへ戻って来ると、試合は随分と進んでいた。

もう何試合かすれば、準決勝だ。

関係者席に再び腰を下ろした光は、先刻と同じように隣りに座る男を怪訝な顔で見やった。

「なんで一緒に来たんですか」
「問題でもあるか」
「いや、問題って言うか、仕事あるんじゃないんですか」

見事にデモンストレーションをこなした穂積は、仁志の試合の応援に戻ろうとした光を呼び止めると、当然のような態度でついて来たのだから勘繰りたくもなる。

これまでの様子を鑑みれば、行事開催中の生徒会役員は、運営組織として多忙を極めているはず。

光とは異なり、まっとうせねばならない仕事が詰まっているのだから、呑気にテニス観戦などしていていいわけがない。

何か裏があっての行動に違いないと、光は胡乱な視線を注ぐ。

「これも仕事の一つだ」
「確かにそうですけど、もうテニスは見回り終わったでしょう。他の競技とかに行かないと」
「そっちじゃない」
「そっちって、他に何が……」
「次の仕事の下地作りだ」
「は?」
「じきに分かる。あぁ、仁志だぞ」

今一つ納得を出来ないながらも彼の目線に従えば、確かに黒と赤のユニフォームを纏った友人が、こちらに向かって歩いて来ていた。

次が出番なのか、手にはラケットが握られている。

「光、お前どこ行ってたんだよ。俺の試合、まだ一つも観てねぇだろ」
「ごめん。会長の弓を観て来たんだ」

応援に行くと約束していたわけではないが、テニスの観戦に来ておいて、友人の試合のみ観ていないというのは申し訳なかった。

仁志は光の傍らに座る生徒会長に、含みのある視線を投げた。

「会長の弓ね……」
「……なんだ」
「いや、別にぃ?」
「ならこっちを凝視するな。俺は綾瀬じゃないぞ」
「なっ、ちょっ!」
「お前……付き合っているなら、この程度で動揺するな」

ボッと火がついたみたいに赤面されれば、逆に呆れてしまう。

片思い歴が長かっただけに、この手の話題でからかわれることに別の意味で慣れてしまっているらしい。

ほとんど条件反射だ。

哀れみさえ抱いて息を吐けば、思いがけず穂積と揃ってしまった。

「会長、可哀想になるので止めてあげて下さい」
「未だにこの状態とは、心底不憫なやつだな」
「てめぇらいい加減にしろよ……」

苛立たしげに凄んで見せるが、自分自身でも狼狽えたのが恥ずかしいのだろう。

未だに耳が赤い生徒会書記は、普段の半分ほどの迫力も出ていなかった。

「でもさ、もう付き合ってるんだから、過剰反応することなくないか」
「俺だってしたくてしてるんじゃねぇ!」
「お前、綾瀬からちゃんと返事をもらったんだろう。なら、自信を持て。いつまでも一人身のときのような態度では、あいつにも失礼だ」

先輩からの珍しい真面目なアドバイスに、仁志はぎょっと肩を跳ねさせる。




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