ゲスト。




SIDE:生徒会

「何考えてるんだよ、穂積っ!」

バンッと執務机に両手を突いた友人は、その優美な面に怒気の色を強く乗せている。

柳眉を吊り上げて糾弾の声を上げる綾瀬にも、会長は余裕の笑みを返した。

「何のことを言っている?」
「決まってるじゃないか!長谷川くんのことだよっ。よりによってサバイバルゲームで〔ゲスト〕指定するだなんて、何を考えて……」

しらばっくれることが出来るはずもないのに、こうして素知らぬフリをするのは、綾瀬をからかいたいがためだけだと、いい加減分かっているので、自然と彼のモチベーションは低下して行く。

眩暈を覚えたように、穂積の机に凭れかかった。

放課後の現在、茜色の光が窓からは差し込み、広々とした生徒会室を穏やかな暖色で染める。

六月と言う時期だけに、やや暑苦しい印象を受けた。

今朝方、穂積が落とした爆弾は、午前中の内に全校隅々まで行き渡り、今年のサバイバルゲーム参加者数を例年の倍にまで膨れ上がらせた。

サバイバルゲームに置ける〔ゲスト〕。

まさかここまで惨い仕打ちを、現実に行うとは誰も想像しなかっただろうに。

暴力行為を認めるような六月のイベントは、本来ならば希望者だけの参加で、不参加の生徒は大講堂にてスクリーンでの観戦となる。

しかし、例外もあった。

何事もなかった風に書類に目を通し始めた友人に気がつくと、綾瀬はその手からさっとプリントを奪い去る。

「何をする」
「君こそ、何のんきにしてるの?自分が何をやったか分かってる?」

平生、優しい目元が釣り上がっているのを見て、穂積は対面の存在が本気で怒っているのだと悟った。

「サバイバルゲームに参加なんてさせたら、長谷川くん……ただじゃ済まないんだよ?」

生徒会から〔ゲスト〕に指定された生徒は、本人の意思に関係なく強制的にゲームに参加させられる決まりがある。

ここ数年、発動させられてはいなかったこの制度。

ゲストと称してはいるものの、言ってしまえば生徒会認定のターゲットのようなものだ。

あれだけ生徒たちに目の敵にされている光が、そんなものに指名されてしまえば、彼を潰す名目が出来たと、皆よろこんで参加して来るはず。

ゲームの趣旨が完璧に変わってしまう。

たった一日で参加希望者の申請が、飛躍的に上昇したのがいい証拠だ。

「長谷川くんに、もしものことがあったら……」
「そこまでの奴だったと言うことだ」
「穂積っ!」

さらっと言ってのけた友人に、綾瀬の目元に朱が走る。

この学院で確固とした地位を築いている穂積に、牙を向いた光。

己に背く相手に相応の報復をして来たのは、幼少からの付き合いで重々承知していたけれど、今回の穂積の処置はあまりに酷い。

怪我で済めば幸運。

有力者ばかりで構成された碌鳴では、命さえ落とさなければ大抵のことは闇に屠られてしまう。

いや、穂積が本気を出せば死んだことすら掻き消される。

慈悲の欠片も見当たらない台詞に激昂しようとした綾瀬は、緩やかに弧を描いた相手の口元を目にして固まった。




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