「何でこんなことしたんですか。運動、苦手じゃないでしょう」

穂積がいくら魔王でも、私心で学校行事を疎かにする人間ではないと知っている。

むしろ彼の真面目な性格は、やるべきを成すタイプだと思う。

意図が読めずに首を傾げれば、相手はちょうどコートチェンジをする選手たちに目を戻しながら。

「俺が参加すると、スポーツマンシップも何もなくなるからな」

事もなげに言われた内容を理解するのに、かかった時間は僅か。

意識するなり苦い気持ちが込み上げて来る彼の家柄を考慮すれば、穂積の言わんとすることは容易に分かった。

学院生たちにとって、体育祭は無礼講だ。

対戦相手との身分差を測らずに全力で挑んでも構わない。

己よりも上位の家柄にある相手だからと言って手を抜こうものなら、同じ学年にいる別の格上の生徒の足を引っ張る結果に繋がるため、複雑な力関係に敏感な彼らも計算などしていられないのである。

学年対抗の形を取ることで、健全かつ公平なルールの下、平等に勝敗を争える貴重な行事。

だからこそ、生徒たちはらしくもなく意気込んでいるのだ。

しかしながら、特例はある。

それが穂積だ。

彼の家柄は圧倒的過ぎる。

世界的大企業「HOZUMI」の名前は、上流階級の者ばかりが集う学院内においても、明らかに飛びぬけている。

例え穂積がそれを望んでいなくても、対戦者が自己防衛のために手を抜いてしまうのだろう。

他を隔絶した立場にある人間特有の問題に、光は目を伏せた。

誰も彼から「HOZUMI」を取り払うことが出来ない。

誰も彼を待つ玉座を無視することが出来ない。

光とて同じだ。

彼の足元に敷き詰められた大理石の道を知ってしまえば、どうして目を背けられるというのか。

「穂積 真昼」という人間を構成する要素には、その生い立ちや背景とて含まれる。

「HOZUMI」の後継者であるのも、彼の一部。

性格も能力も思考も趣味も。

彼が身を置き続けて来た「HOZUMI」と言う名の環境に、影響されていないなどあり得ない。

例え本人の意思に関係なく、他者から付与されたものであったとしても、すべては彼を形作る欠けてはならない大切なピースだ。

そこを無視して付き合うのは、相手を軽んじているに他ならない。

光が言葉を交わし、熱を分け合い、傍にいたいと望んだのは、「HOZUMI」の次代の担い手として生きて来た「穂積 真昼」なのだから。

生きる世界が異なるとしても、傍にはいられないとしても、今この瞬間に光の隣りにいるのは、「HOZUMI」の要素を有した「穂積 真昼」なのだから。

「……じゃあ、今まで一度も体育祭には出たことないんですね」

同情は無意味と知っていながらも、行事の準備に懸命に取り組んでいる穂積が参加できない虚しさに、沈んだような声が出てしまった。




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