「会長は、どの競技に出るんですか?」

ラリーの続く試合を眺めながら、ふと疑問を口にした。

後輩の活躍を観に来たのかと思いきや、穂積は見回りの仕事でテニスコートを訪れたに過ぎないと言う。

生徒会役員が顔を出すだけで、出場選手たちの士気は上がるし、観客もマナーを守って試合を見届ける。

特別なことなどしなくとも、その存在一つで見回りが整ってしまう生徒会の影響力を改めて実感だ。

彼は繰り広げられる熱戦に顔を向けつつ、手元の書類に目を通している。

「俺は出場しない」
「は?なんですか、それ」

予想外の返答に眉が寄った。

いくら生徒会長だからと言って、他の役員は出場しているのに、一人何にも出ないなど許されるものなのか。

一般生徒たちとて、穂積の活躍する姿は見たいだろう。

「今回の競技種目の中に、弓道があっただろう」
「あぁ、はい」
「弓道場の開放とデモンストレーションで一立するのを条件に、俺の競技への出場は免除になった」
「開放?」
「あれは俺が所有する施設だからな。……知らなかったのか?」

書類から目を上げた男は、少々驚いた様子で光の方を見た。

学院内にある弓道場の土地は、歴代の生徒会長に継承される自由区域で、資金を全額自己負担すれば何を造っても構わないのだと言う。


当然、何も造らない生徒会長もいる。

それでもそのエリアには、会長の許可なしに生徒はもちろん、教師とて立ち入ることは出来ないのだと、穂積は説明してくれた。

お得意の「碌鳴ルール」に驚く気力もなく、大人しく耳を傾けていた光だったが、ある可能性に気がついた。

まさかと思いながらも、否定が出来ずに問いかける。

「あの、ちょっと聞いてもいいですか」
「なんだ」
「もしかして、体育祭の競技に弓道が入ったのって、去年からじゃないですか?」
「そうだ」
「提案したのって、会長ですよね」

窺う視線に、穂積は口角を持ち上げた。

「やっぱり……」

的中した予想に呆れ果てる。

穂積は最初から、体育祭に選手として出場するつもりがなかったのだ。

だから、自分が所有する弓道場がなくては実施できない弓道を、競技種目に組み込んだに違いない。

平時は立ち入り禁止のエリアに入れると言うだけで、生徒たちの不満は解消されるし、穂積の射が見れればむしろ満足するはず。

教職員が体育祭を取り仕切る生徒会にNOを言えるわけもないだろう。




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