生徒会役員であるならば兎も角、一般生徒。

それも学院の鼻つまみ者である己が、このような特別待遇を受けては、生徒たちから何を言われるのやら。

分からぬ穂積ではないだろうに、彼はさっさと椅子に座ると、自分の傍らを手でたたいて着席を促した。

もしや「潰す宣言」の復活なのかと疑いながら、渋々と腰を下ろす。

彼の説明は今しがた光が考えたものと相違ないのだ。

決勝の試合まで立ったままだなんて御免だと、思ったのは事実である。

穂積の登場に気付いたギャラリーのざわめきに、諦めの境地で耳を傾けた。

「穂積様、今日も素敵だなぁ」
「長谷川?あぁ、仁志様の応援か」
「なぁ、隣りにいるの転校生じゃねぇ?」
「何で穂積様と一緒にいるんだよっ」
「長谷川じゃしょうがねぇだろ」
「なんだ、長谷川かよ」

拾い上げた生徒たちの話し声に、光は時代錯誤な眼鏡の下で目を丸くした。

どういうことだ。

以前ならば、嫌悪感を剥き出しにした罵声が飛び交うというのに、今日は何がどうなっている。

穂積の隣りに座ったことを嫉妬をしている者はいても、仁志の応援で関係者席に入った千影を批難する内容はほとんど聞こえない。

仁志のファンに認められ始めている。

そう教えてくれたのは、学院ホストの渡井だった。

まさかここまでだとは、思いもよらない事態だ。

「長谷川」
「……なんですか」

始まった第二試合を見つめたまま、傍らの男が口を開く。

「お前は仁志の友達なんだろう」
「そうですけど」
「だったら、ここにいろ。外野も諦めてる」
「……俺、しぶとかったですかね」
「どんな嫌がらせを受けても、仁志から離れなかったんだから、十分しぶといんじゃないのか」

転校してからずっと、瑣末なことから一大事まで、数多くの嫌がらせを受けても仁志の傍に居続けたのは、あの外見不良が売人の可能性があると思ったからだ。

けれど何より大きな理由は、仁志の傍にいたいと願っていたから。

仁志と友達になりたいと、ずっと思っていたから。

「根負け?」
「そうとも言う」
「ははっ」

はっきりと肯定され、笑ってしまう。

器官の辺りで堰き止められた、重苦しい呼気の塊はいつの間にか消えている。

渡井の言葉をようやく受け入れることが出来た光は、穂積の浮かべた柔らかな微笑に気付かなかった。




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