涼やかな瞳に宿る感情は、痛烈な皮肉に僅かに苛立っていると主張していたが、そんな微細な変化は観察力の鋭い光や付き合いの長い仁志にくらいしか分からない。

穂積のブレザーに、醤油のシミが見つからないことで、光は「ブルジョワがっ」と内心だけで苦く思う。

「……何しに来たんすか、会長。三年の教室は上だろ」

スラックスのポケットに手を突っ込み、不機嫌に言う仁志に、穂積は僅かに目を細めた。

「お前に用があるわけではない。用があるのは……」

黒曜石の輝きが、隣からそれて光に移る。

威圧感のある眼力を光は顔を上げたまま、受け止めた。

隙を見せるのも、密かに動悸がスピードを上げていると知られるのも、御免だ。

まるで検分するかのように、穂積はこちらを観察したあと、不意に背を向けた。

三人を中心に、ドーナツ現象よろしく遠巻きになった野次馬たちが、おたおたと動揺する。

一体なにが始まると言うのか。

緊張という点では、ギャラリーと大差ない光も、固唾を飲んで会長のアクションに注目する。

穂積がさっと視線を廻らせれば、あれほど騒がしかった廊下が一気に静まり返った。

絶対君主から溢れ出す、他を隔絶した気迫を前に、誰もが自然と膝を屈するのだろう。

生徒の数に見合わぬ静けさの中、穂積がよく通る音色を響かせた。

「2−A 長谷川 光を、六月校内行事にて〔ゲスト〕に指定する」




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