じわりじわりと目を見開いて、傍らの男を凝視してしまう。

「マジで……?」
「マジに」
「やったじゃん」
「……本気で思ってるか?」

疑わしげな物言いをされても文句は言えないほど、光の反応は落ち着いていた。

否、正確には落ち着いているように「見えた」だ。

友人の綾瀬に対する想いは、恋心というものへの理解が薄い少年にも、何とはなしに悟れていたし、綾瀬側の感情は当人から語られていたので承知している。

八月の初頭、彼らの関係の歪さを目の当たりにしたこともあって、ただの先輩後輩でもない、本当の意味での正常な関係として成立したことは、純粋に喜ばしい。

恋人としての立場を手に入れたからこそ、仁志がこれだけ浮かれているのも分かるし、同調して拍手だって送ってやりたい気持ちもある。

だが、たった一つだけ浮かんだ疑問が、光のテンションの上昇を殺してしまった。

「あのさ、言っていいのか分かんないんだけど」
「んだよ」
「今になって?」
「は?」

東棟の昇降口で傘を畳みながら、気不味そうに告げれば、相手は肩についた水滴を払いつつ首を傾げた。

難しいことを言ったつもりはない。

むしろ、他人からすれば訊きたくなって当然の疑問だと思う。

教室へと流れて行く生徒たちの波に混じりながら、もう一度。

「今になって両想いってことはさ、これまでずっとただの友達?みたいな関係だったんだろ」
「あぁ、それが何だよ」
「仁志、いつから綾瀬先輩のこと好きだったんだ?普通はどうなのか知らないけど、恋人同士になるまでの期間、長くないか」

綾瀬や歌音の話しを聞き、仁志と綾瀬のすれ違いを目にして、恋という感情が儚い煌めきを放つ純然な想いであることは学んだ。

真っ直ぐで、ときに本心とは間逆のアクションを取ってしまう、危うさを孕んだ熱情であることは覚えた。

それでも体感したことのない光には、有する想いを心内に秘めている時間が、どれくらいであるのが平均なのか分からない。

光の知る限り、綾瀬は二か月前には確実に仁志に好意を持っていた。

綾瀬との相性を語った光に、仁志が柔らかく微笑んだ理由が恋心だとすれば、この金髪頭は六月の時点ですでに綾瀬を好きだったことになる。

途中、溝が出来てしまった二人だが、それでも数カ月もの間、なぜ心中を告白しなかったのだろう。

引き延ばしに引き延ばして、恋人として新たな関係を始めたのが、なぜ今なのだろう。

不思議顔で見上げた先で待っていたのは、虚を突かれた様子の男だった。

何度か瞬きを繰り返されて、それほど意外なことを言ったのだろうかと不安になる。

自分の訊ねたことは当たり前の常識で、無知ゆえの愚問だったのか。

返答が与えられたのは、仁志の視線が足元へと落ちたときだった。




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