つまり、この銀髪の男はインサニティを見たことがあり、話されては困る何らかの情報を霜月に握られていたのではないか。

致死量に近い睡眠薬を飲ませたのは、話せば次はないのだと霜月の身体に刻みつけるためでは。

そう考えるのが自然だ。

だが、千影の憶測が真実だとした場合、疑問点が生じることになる。

何故この男は、これまで受けた生徒会からの事情聴取に、霜月がその情報を漏らしていないと知っているのか。

身に着けていた碌鳴学院の制服通り、男が内部犯であったとしても、ドラッグ問題は学院の最重要機密。

おいそれと調査状況が手に入るはずがない。

「この男、本当に何者なんだろう」
「さぁな。今回のことで、また外部か内部かも分からなくなったんだ」
「制服着用っていう、これ見よがしの内部犯アピールだから?でも、初めにもらった間垣さんからの情報じゃ、碌鳴の生徒に売人の元締めがいるんじゃなかったっけ」
「あぁ。けどな、今回みたいに制服さえ着ていれば、碌鳴の人間だって相手に思い込ませることは出来るだろう。城下町じゃ目ぼしい収穫もなかったが、やっぱり外部の人間って線も疑わざるを得ないな」

うんざりした様子の木崎に、千影も頭を抱えたくなった。

ひと夏かけて掴んだ内部犯であるという確信が、打ち崩されたのだから当然だ。

リストに載っていた不審行動の目立つ生徒の調査に関しても、全員シロだった。

有力な容疑者の存在は確認できたものの、調査が振り出しに戻された現状に泣きたくなる。

「武文……俺、このヤマ解決できる気がしないんだけど」
「言うな。くじけそうなのは俺も一緒だ」

それでも、一度引き受けた依頼を投げ出すわけには行かない。

何より、碌鳴に蔓延るドラッグの脅威を、千影は赦すつもりはなかった。

穂積や仁志、綾瀬に歌音に逸見。

彼らが日々懸命に尽くしているこの学び舎を、ドラッグなどで穢していいはずがないのだ。

銀髪の男がインサニティと密接に関わっていることは間違いないのだから、捜索を続けるのみ。

決意を新たに灯した瞳で正面を見据えると、同じような目をした木崎と視線がかち合った。

「俺は、この時間帯に職員寮に入った人間の履歴を漁ってみる。外部の人間だとしても、誰かのIDパクるかしなきゃ入れないからな」
「分かった。なら俺は……今度こそ近づいてみる」
「近づくって、誰にだ?」

訝しげに訊ねられ、千影は少しだけ逡巡したあと、きっぱりと言った。

「須藤先生」
「須藤 恵?そういや、気になるって言ってたな」
「うん。前から探るつもりだったんだけど、上手く行ってなくてさ。でも、もう嫌がってもいられないし」

接触を持とうとするたび、正体不明の悪寒に見舞われて、いつも逃げ出してしまっていたけれど、ここまで来たのなら逃げてもいられない。

有力な情報がない今、出来ることは限られている。

それに、千影の中の調査員が叫ぶのだ。

あの悪寒が何に起因するものなのか、見極める必要があると。

だから、今度こそ。

フラッシュバックしかけた冷たい恐怖を押し潰すように、千影はぐっと両の拳を握り込んだ。




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