事前に仁志から聞かされていたことで、霜月が謹慎させられている部屋であることは分かったけれど、学院の内部構造に詳しくない千影には、そこがどこであるかまでは検討も付かない。

「あぁ、ここ反省室だな」
「また意味分かんない施設だよ……。どこにあるんだ?」
「職員寮の地下だ。地下フロアには見張りがいるだけだが、寮自体に入るには入り口で教員IDか学生証を通す必要がある。俺の見たとこ、複製は難しいだろうな」
「へぇ。……っ!」

山奥の全寮制ならではの施設に、まるで治外法権だなと思いつつ応じたときだった。

何の面白味もない画面の映像が、変化を見せた。

見張りの一人が立ち眩みでもしたかのように、壁に手をつくや、そのまま床へと倒れ込む。

相方の異変に驚いたもう一人も、後を追って気を失い、ぐったりと地べたに身を横たえた。

動揺しかけた千影だったが、どうにか声を出すことは免れた。

感情的になるな、映像はまだ続いているのだ。

衝動のままにリアクションを取るなど、あってはならない。

「近くで何か気化させたな。クロロフォルムとかなら、普通は眩暈や吐き気程度で済むんだが、たぶん手ぇ加えてるぞ」

冷静な面持ちで分析をした木崎に、千影は未熟な己を自覚する。

浮ついた心を律する意味も込めて表情を引き締めたのと、第三の人物が画面の中に登場したのはほぼ同時だった。

ゾワリっと、全身が泡立つ。

銀色の髪。

カメラ映像でもはっきりと分かる、眩い色彩に目を奪われる。

肩にかかる長い銀髪の男は、見慣れた白いブレザーを纏っていた。

決してこちらに顔を映すことなく、少しの躊躇いや迷いもなく目的を遂行して行く。

ディスプレイの中で進行する出来ごとを、食い入るように見つめていれば、やがてすべてが終わり映像は停止した。

「この後、逸見 要が駆けつけて、倒れている霜月 哉琉を発見ってわけか。千影?」
「え、あ、あぁ、うん。そうらしい。見張りのカードキーが持ち去られていて、スペアを持っている逸見先輩のところに、委員が来たって仁志が言ってた」
「なるほどな。鍵を奪っておけば、霜月の発見が遅くなる。口封じが目的なら当然か」
「ただ、霜月先輩が飲んだ睡眠薬の量は、散らばっているものすべてを合わせても、致死量ではなかったみたい」

ブラックアウトしている画面を未だに眺めていた千影は、木崎の声にはっと我に返った。

仁志から提供された詳細情報を口にしながら、併せて渡された資料写真を差し出す。

インサニティを模した件の錠剤と、銀髪の男が映った写真を見る男の目は厳しい。

調査員としての研ぎ澄まされた眼だ。

「もしかしたら、霜月先輩は何かを知っていたのかもしれない」
「売人に繋がる情報か?」
「分からないけど、可能性は高いだろ。この男が何かしらインサニティに関係しているとして、致死量未満の睡眠薬は先輩への脅しになる」

テーブルの上に放られた容疑者の一枚を目で示す。

彼がドラッグの売人である確証はないものの、霜月に飲ませた睡眠薬は本物のインサニティと見紛うほどに、完成度の高いものだった。




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