再びの決意を。




退屈な古典の授業が終了すると同時に、生徒たちは昼休みに突入する。

解放感からワッと騒がしくなった教室を、光は一人抜け出した。

廊下は食堂や購買に向かう生徒で溢れかえっており、その隙間を最小限の動きで縫って行く。

途中、転校生の存在に気づいた生徒に、鋭い眼光を飛ばされるも、以前と比べれば数えるほどだ。

むしろ、会長方を解散させる原因となった少年に、どのような態度を取ればいいのか困惑している者の方が多い。

生徒たちの微妙な空気を肌で感じながら、光は静かに本校舎の一階まで下りて行った。

食堂とは逆方向に進むと、生徒の姿はほとんど見受けられなくなる。

閑散とした周囲の様子にも警戒を怠らず、目的地の扉を聊か緊張した面持ちでノック。

コンコンッと、人気のない廊下に硬い音が響いた。

室内からの応答はなく、扉には「外出中」の札がかけられていたけれど、光は構うことなく保健室の扉を開けた。

本当に無人ならば、施錠されていないはずがない。

「武先生」
「あぁ、長谷川。来たか」

デスクの回転椅子についていた男は、後ろ手に扉を閉めたこちらを見て、唇を緩めた。

応じるように青痣の残る頬に笑みを浮かべる。

痛々しい痕跡を捉えた相手の眼が、一瞬だけ浮かべた陰りに気づくことはない。

「誰にも見られなかったか?」
「当然だろ」

秘密の逢瀬のようなやり取りだが、密会という点に置いては間違っていない。

人気保健医の武のもとに、人目を忍んで向かう姿が目撃でもされては、せっかく落ち着いた光への悪意が再燃すること請け合いだ。

日頃は休み時間のたびに生徒たちが押し掛ける保健室だが、すでに不在の札で人払いはしてあるようで、室内に他の人間はいなかった。

勧められるままに丸椅子に腰をおろすと、武は給湯スペースでお茶の用意を始める。

手持無沙汰の少年は、ぐるりと視線を廻らせた。

窓から差し込む柔らかな秋の日差しと、電灯に照らされた空間は爽やかに明るい。

あの夜と同じ部屋だと言うのに、まるで別の場所のようだ。

時間によって顔を変えているのか、それとも共にいる人間によって印象が変わってしまうのか。

無意識の内に強張っていた、全身の筋肉を弛緩させた。

「アキは何だって?電話じゃ詳しいこと聞けなかったからな」
「あ、うん。それがちょっと深刻なことになっててさ」

差し出されたマグカップを受け取りつつ、本題を切り出した調査員にこちらも居住まいを正した。

昨日、仁志から与えられた新たな情報は、千影にとって想定外のものだった。

ドラッグとの関連で霜月が未だ学院内に留まらされていたことは勿論、その彼にインサニティを模した睡眠薬を飲ませた者が現われたなんて。

木崎のパソコンに生徒会書記から借り受けたDVDをセットすると、ほどなくしてディスプレイに映像が再生された。

一つの扉を上方から捉えた映像には、見張りの生徒二人が映っているばかりだ。




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