保健室で渡された少年の悲痛な心情が、頭から離れないのだ。

痛々しい訴えが、耳奥でリフレインをすれば動けなくなる。


――お願いだから、頼らせないでくれよ……期待、させないで


想い人に頼られて、喜ばぬ人間などいないと思う。

相手に心を許し信頼していなければ、救いを求めたりはしないもの。

手を伸ばされたと言うことは、どんな種類であろうと相手から好意を持たれている証拠だ。

少なくとも、穂積は頼られた瞬間、光に受け入れられている実感を覚え、喜びを抱いた。

生きる世界が異なるのだと、触れ合える距離にはいないのだと。

直前に拒絶されていた分、湧き上がる歓喜は眩暈をもたらすほどで、疑いようもない熱量が恋心の自覚に至った一因でもある。

なのに、あの少年本人は、頼る自身を許してはいなかった。

投げかけた問いかけに波だった水面は、荒ぶる感情を器から溢れさせ、彼の本音を穂積に聞かせた。

頼りたくない。

期待したくない。

助けを求めるような、脆弱で非力な己などいらない。

いらない。

抱え込んだ傷だらけの体躯が、怯えるように、厭うように震えていたのを知っている。

助けに走るのは自分のためなのだと、何度となく言い聞かせても、黒髪の少年は最後まで頑なに拒絶し続けた。

まるで信頼を恐れるようなか弱い姿に戸惑うと共に、どうして彼は一人きりで立とうとするのかが分からなかった。

自分一人の力では限界がある。

そんなことは明らかで、何かを成そうとするならば、他者の力は必要不可欠だ。

自力のみで生きていると思うのは浅はかな幻想であり、自立の意味を理解していない盲目的な愚かさと言える。

自らが他力となることを躊躇わない光が、根本的かつ基本的な事項を理解していないとは思えない。

ならばなぜ、頼る自分を許さないのだろう。

滲む声で囁き落ちた懇願に、追及は出来なかった。

伏せられた貌、強張った身体、委縮した心。

抱きしめれば砕け散りそうな少年を前にして、それ以上何を言うことが出来ようか。

分からない。

他者に頼ることを拒む光が。

分からない。

何が光を一人へと駆り立てるのか。




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