幼馴染。
SIDE:穂積
パンッ!
乾いた破裂音にぎょっと目を見開けば、続けて数発が鼓膜を打った。
同時に、穂積目がけて振って来る、色とりどりのカラーテープ、紙吹雪。
突然の事態に呆気にとられた男は、にこにこと満面の笑みを浮かべた綾瀬の言葉を理解するのに、しばしの時間を必要とした。
「青春突入おめでとう!」
「……は?」
いくつもの使用済みクラッカーをまとめて手にする幼馴染は、胡乱げな様子のこちらに構うことなく笑みを崩さない。
至極嬉しそうに「いやだなぁ、とぼけないでよ」と口にする。
そんな相手の姿に、再稼働を始めた穂積の思考回路は、嫌な予想を瞬時にはじき出した。
青春に突入。
青い春に突入。
心当たりなどないと言えないのが、致命的。
何故にこうも早く知られてしまったのか、僅かな慄きと果てしない疲労感に襲われて、目元を覆った。
「……いつ、気付いた」
「あれ?否定しないんだ」
「バレているんだ、しても意味がないだろう」
「いやだな、分からないはずないじゃない。まぁ七割勘だったけど」
あっさりと寄越された内容は、ただでさえショックを受けていた穂積にとどめを刺した。
がっくりと項垂れてしまう。
対する綾瀬と言えば、底にテープが張り付けられているアイディアクラッカーを使ったのか、飛び出したカラーテープをくるくると腕に巻きつけて回収している。
「片づけるのに便利だよね、これ」
「そうだな……」
ミーティングが終了した現在、碌鳴館生徒会執務室で仕事をしているのは二人だけだ。
穂積の気持ちへの配慮として、他の役員がいない時間を狙ったのだろうが、その気遣いにまた複雑な気分になる。
つい最近、気がついたばかりの己の気持ちを、自爆に近い形で知られてしまったなんて。
重く深い嘆息が、意識せぬ間に唇から吐き出された。
「青春真っ盛りだって言うのに、幸せ逃げるよ?」
「俺はお前ほど浮かれた頭をしていないんだ」
「そんなこと言って、長谷川くんにフラれても知らないから」
何気なく言われた言葉に、穂積は思わず沈黙した。
己の想いを否定をするつもりはない。
露骨に主張する気はないが、必死に隠すつもりもない。
そうして。
今はまだ、光に告白をするつもりもなかった。
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