淡々とした口調は残虐な仕打ちが事実であることを、部屋にいる者全員に知らしめた。

霜月は重度のインサニティ中毒者ではなかった。

定期的に服用はしていても、幻覚や幻聴などの症状に苛まれることはなく、日常生活は問題なくこなしていた。

暇つぶしのセックスドラッグ。

その程度の認識で、ほんの戯れとして服用していたのだと彼は語っていた。

だが、将来への展望も見えないまま謹慎状態に置かれた彼が、精神的に追い詰められていたことは事実。

碌鳴を退学させられ、家からも叱責を浴び、思い描いていた輝かしい未来が粉々に砕け散った霜月が、幾度となく体験したひと時の快楽に逃避しようとしても、不思議はなかった。

「こいつ、分かってて……」

苦々しげに吐き出した仁志の呟きには、明確な怒りが滲んでいる。

疲弊し脆くなった霜月の心を狙った、あまりに惨い手段に湧き上がる嫌悪感。

テーブルの上に置かれた銀髪を、眇めた眼で凝視した。

執務室いっぱいに満ちた重苦しい空気は、仁志と同様の想いを各人が抱いている何よりの証明だ。

「それで、生徒の絞り込みはどうなっている」

先ほどよりも冷え込んだ穂積の促しに、逸見はやはり表情を変えず事務的に報告を続ける。

「現在のところでは、該当する生徒は見つかっていません」
「外部犯の可能性は?」
「碌鳴のセキュリティレベルを考えると、難しいと思います。ただ、可能性はゼロではないでしょう」

もしも内部犯なのだとすれば、悪目立ちをする風体なのだから、すぐに見つかっても不思議ではない。

銀色の髪など、そうそうお目にかかれるものではないだろう。

在籍する生徒の多くが良家の子息だからと言って、皆が皆、生来からの髪色を保っているわけではない。

校則もないので、一部の生徒は派手な色に髪を染めている。

その先導的役割を担っているのが仁志であり、信奉者は彼のスタイルを真似て同じように明るい色合いの髪をしている者が多くいた。

だが、その一部の生徒たちの中にも、銀色の容疑者は見つけられなかったと言うのだ。

未来の要人たちの安全も担う、碌鳴学院のセキュリティレベルは非常に高い。

簡単に外部からの侵入が果たせるとは考え難いが、内部で見つからなければ疑うのは当然の流れ。

わざわざ見張りの付いている霜月に、接触をして来たのだから、銀髪の男がインサニティに関係しているのは確実だ。

そうして、未遂とは言え霜月の命を脅かしたのならば、あの少年が何かしら有力な情報を握っている可能性がある。

突然、寮の自室に届けられたとは言っていたが、もしかしたら直接、売人と薬の取引をしていたかもしれない。

ただ、繰り返される尋問に、最初の頃こそ口を噤んでいたが、次第に大人しく質問に答えるようになった霜月の、疲れ切った表情が演技だと思えないのが引っ掛かった。

一体、この男の目的は何なのだろう。

なぜ、霜月の口を封じる必要があったのだろう。

霜月は何を知っていたのだろう。

答えの出ぬ疑問は次から次へと噴き出して行く。

「じゃあ、今のところ内部と外部、両方の線で調べてみるしかないんだね」
「そうなります。私は折を見て霜月に探りを入れてみます」
「今度のことで霜月本家はそうとうナーバスになっているはずだし、慎重にね」
「内部だろうと外部だろうと、反省室のフロアに入れる者は限られている。そこも考慮した上で――」

交わされる他の役員たちの会話に耳を傾けていた仁志は、眩い銀髪が写る写真にふと違和感を覚えた。

何かが、おかしい。

奇抜な髪色にケチをつけたいわけではなく、何かが妙なのだと勘が告げる。

初めて目にするはずの銀色の髪を、何故かどこかで見たような気さえして、自分自身に困惑してしまう。

違和感の原因を見極めようと凝視し続けるものの、胸の中の引っ掛かりが強くなるばかりで一向に正体は掴めない。

輪郭のない不明瞭な感覚を、今後の方針をまとめだした年上の仲間たちに言うことは出来なかった。




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