違和感。
SIDE:仁志
三日間限定の助っ人によって、生徒会の抱える仕事は随分と片づけられた。
お陰で仁志は、今学期に入って初めてクラスのHRに出席することが出来たし、こうしてデスクを離れ、役員全員で応接テーブルを囲む時間も取れた。
勿論、忙しい身の上を突き合わせて、わざわざティータイムを楽しんでいるのではない。
テーブル中央に広げられた資料を険しい表情で睨んでいると、逸見が淡々と説明を始めた。
「先日、午後六時ごろ、反省室に謹慎中だった霜月 哉琉に何者かが接触をしました。その写真は、監視カメラの映像を拡大したものになります」
霜月が収容されていた部屋から、出て来たところを捉えたもののようで、件の人物は扉を背に映っている。
解像度を上げた写真はその人影をくっきりと映していたものの、深く俯かれた顔はうまい具合にカメラの目から隠されており、人相は分からない。
長身と思わしき痩身が身に付けた白いブレザーと、肩まで伸びた銀髪だけが手掛かりだ。
「見張り二人は調査の結果、気化した薬品を吸い込み意識を奪われました。また、霜月 哉琉は現在、碌鳴系列の病院に入院中です」
「状態は?」
「睡眠薬の過剰摂取が原因で、一時は意識不明でしたが、現在は容体も落ち着いています」
生徒会長の問いかけに返された言葉に、向かいのソファに座る二人がほっと息を吐くのが分かった。
交流会中に発生したこの一件は、ちょうど光の拉致と重なっていたために、生徒会への報告は事件発生から数時間後だった。
迅速に動いた逸見によって、すべての対応は滞りなく行われたが、知らされたときに受けた仁志たちの動揺は小さくない。
何しろ、ここまで重大な事件が学院内で発生してしまったのだ。
すでに退学処分の済んでいる霜月を、ドラッグ調査のために学院に留まらせていたが、こうなってしまっては解放するしかあるまい。
跡取りのドラッグ服用を他言しないことを条件に、霜月本家からの抗議はなかったが、彼の体調が戻り次第、家に帰される手はずになっていた。
「霜月くんは、どうして睡眠薬なんて飲んだのかな」
歌音の疑問は当然だった。
反省室に置いてあるものは、学院側でチェックを入れたものばかりで、サプリメントはともかく睡眠薬は許可していない。
侵入者である銀髪の男が持ち込んだのだろうが、過剰摂取をすればどうなるかくらい、誰でも理解できるはずだ。
碌鳴からのドロップアウトに絶望し、自らの人生を悲観して自殺を選択したのではないかと考えるも、今一つ腑に落ちなかった。
「無理やり飲まされたんですか?」
「いや、そうじゃない」
きっぱりと否を告げた会計方筆頭の口から、衝撃的な発言が語られたのは次のときである。
「偽装されていたんだ」
「え?」
「ヤツが服用していたドラッグ――「インサニティ」を模した睡眠薬が、霜月の周りに散らばっていた」
逸見の長い指が示す先の写真には、艶めかしい赤色の錠剤。
現在、学院で蔓延しつつある、強力な催淫作用をもたらすドラッグそのものだと思っていたのだが。
「それが、霜月が飲まされたと思われる、睡眠薬です」
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