そうこうしている内に、いつの間にやら種目の読み上げが一周してしまった。

定員に達したものには斜線が引かれており、唯一経験のあるダーツも消されている。

仁志の意外な一面に気を取られ過ぎて、うっかりしていた。

残っているのは、定員割れと立候補者多数により保留となっている競技のみ。

どこで手を挙げるべきか考えるまでもなくなったから、返って良かったのだと自分を納得させて、二周目を開始した担任教師が最初に挙げたそれに、すいと手を持ち上げた。

「長谷川くん、ですか?他に立候補者はいないようですし、構わないよ」
「じゃ、リレーでお願いします」

すんなりと希望が通ったことでほっとしたのも束の間、教室内がざわめいた。

「あいつがリレー?」
「400走れるのかよ、長谷川が」
「途中でぶっ倒れそうじゃねぇ?他の連中が頼りだな」

囁きはそこかしこから聞こえるのに、中途半端な声量だ。

一学期の罵声ほど大きくもなく、かといって静かなわけでもない。

ただ全員が、陰鬱とした外見を持つ光の実力を疑っている。

それも致し方のないことだと思う。

少年の俊足を目の当たりにしたことのある生徒は極一部。

サバイバルゲームの鬼ごっこに参加していた者がいても、興奮状態にあれば実際どれほどのスピードで光が疾走していたかなど分からないだろう。

隣りの席の友人が、一見不良にしか見えないのと同様、光もまた根暗なインドア派にしか見えないのだから。

「こそこそうるせぇんだよっ、文句は当日こいつがノロかったら言え!」

ガンッと机を蹴りつけての一喝。

教室内を睥睨した仁志に、沈黙はすぐさま訪れた。

これまでよりも随分と優しい生徒たちの反応だったのだが、庇われた身では何も怒らなくともとは言えない。

冷え込んだ空気を完全に無視して、出場者決めを再開した担任がやけに頼もしかった。

残りの競技はとんとん拍子で決まって行く。

定員割れを起こしていたリレーも埋まったことで、生徒たちに余裕が生まれたのかもしれない。

やがてすべての種目に生徒が振り分けられ、須藤はHRを終わらせ出て行った。

彼らが授業以外で積極的に手を挙げている姿は珍しかった。

潜入調査に入って以来、数々の行事を体験して来たが、体育祭は肉体の酷使とも言える。

温室育ちの碌鳴生たちが、汗をかいて必死にスポーツに取り組むわけがないと勝手なイメージを持っていた光は、生徒たちの予想外の真剣さに内心驚いていた。

「みんな、運動好きだったんだな」
「は?」
「だって一生懸命だし」

バスケットボールに出場が決まった生徒たちが、さっそく特訓の時間を決めている様子を目で示す。

「まぁ、中にはそういうヤツもいるけどな。大方は運動が好きなわけじゃねぇよ」
「でも真剣だろ」
「勝ちたいからだ、「ここ」でな」

その言葉で気がついた。




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