戒め。




常ならば生徒たちの話声でざわつく大講堂は、重苦しい沈黙に満たされていた。

着席した全校生徒たちは、一様に口を噤んでおり不安そうな気配が周囲に立ち込める。

光は二年に割り当てられた大講堂中ほどの座席から、もう間もなく主役を迎えるであろうステージを見下ろしていた。

交流会が終了して数日。

元会長方が引き起こした事件によって、鳳桜学院側と話し合いの席が設けられたことは、仁志から伝え聞いていた。

幸い、光が身を呈して小鳥を庇ったお陰で彼女に怪我はないし、生徒たちの処遇は退学という重罰に決定したため、表だった抗議は免れたらしい。

随所を打撲した光は、保健室で仮の処置を受けた後、病院に連行させられかけたのだが、それだけは必死で拒んだ。

病院など行けば、身元を明らかにしなければならなくなる。

長谷川 光などという人物は、現実には存在しないのだから、とてもじゃないが診察など受けられない。

光のことを思っての提案は有難いが、武のフォローもあってどうにか自室療養に留まった。

だが、お陰で交流会の閉会式には出席できなかった。

いくら鍛錬を積んだ光と言えど、一方的な暴力を受け続けたのだから、翌日には全回復などという離れ業は不可能。

久方ぶりに熱まで出して、今日は久々の登校だった。

頬に残る青痣は悪目立ちすると湿布で隠して来たが、そんなことくらいで生徒たちの目をくらませることは出来なかったらしい。

どこから流れたのか、元会長方が暴挙に及んだことは噂となっていて、登校中から無数の視線に晒されていた。

朝のHRにやって来た須藤から、緊急集会が開かれると聞かされたときは、誰もが光へと意識を向けていた。

今回の集会が、九月末に起こった事件に関するものであるのは明白だけれど、一体あの男は何を話すつもりなのか。

未だに痛む身体を労わるように、深くシートに身を沈めた状態で大人しくしていると、やがて大講堂内の灯りが落とされた。

パッとステージにスポットライト。

始まりの合図だ。

スピーカーから奏でられるであろう綾瀬の声を予想していた光は、すっと舞台上に現われた漆黒の髪に驚いた。

司会者の不在に、他の生徒たちも戸惑っているようだ。

だが、毅然とした態度で穂積がマイクの前に立つと、誰もが居住まいを正す。

絶対的支配者の気迫に圧倒されまいと、全身に力を入れる。

穂積は秀麗な貌に硬質な表情を乗せて、大衆を圧するほどの気迫を醸し出している。

『これより、緊急集会を始める。一同、着席のまま、礼』

厳かな低音に、すべての人間はザッと頭を垂れた。

『先日、我が校で催された交流会について、諸君らはどこまでを知っているだろうか』

婉曲な切り出しに、各人の脳内で学院内で囁かれる噂が思い描かれる。

緊張感で張り詰めた空気を揺らすのは、ただ一人だ。




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