ひそひそひそ。

小声で交わされる自分への悪意に満ちた会話。

部屋にスクールバッグを取りに行ったあと、二人揃って校舎までの短い距離を歩く間も、付きまとう周囲の目と声。

最早、背景化したそれらを光は少しも気にせず足を進めるので、驚いたのは傍らの仁志である。

外見は引きこもりでもしていたかのような、根暗代表選手なのだが、肝が据わっているようだ。

まだ二日目と言うこともあるだろうが、光ならばどうにかやって行ける気がした。

「たった一日で慣れて来たみてぇだな」
「俺、順応能力高いから」
「ならまず、その外見どうにかしろよ」
「また、仁志くんも外見至上主義デスカ?」
「ばっ、違げぇよっ!俺はただに……」

ムキになって反論しようとする仁志に、光が楽しそうにくすくすと笑うので、そこでようやくからかわれただけなのだと気付く。

途端、むっと顔を顰める不良少年。

シャープな顔立ちも手伝ってか、迫力のある不機嫌顔だが、光が怯えることはもうない。

「ごめんごめん。けど、俺はこのままで行くよ。今更イメージチェンジ狙っても、逆に反感買うだけだろうしさ」

目元まで伸ばされたボサボサ黒髪と分厚な眼鏡の自分は、昨日のうちに学院内で指名手配犯のごとく、全校生徒に知れ渡っているだろう。

仁志に付きまとい、穂積会長に醤油をぶっかけた極悪人として。

下手に身なりを整えたところで、逆に攻撃材料にされるだけだと、光はよく自覚していた。

もちろん、素顔を晒すなんて真似は仕事上出来ないし、何より仁志の前で今の変装を解いたら『キザキ』だとバレる可能性は飛躍的に上昇するはずだ。

この学院での自衛手段として提案されたと分かっていたが、光には無理な話。

茶化して煙に巻くに限る。

仁志は「それもそうか」と、あっさり引き下がった。

「それよりさ、さっきの話」
「あぁ?」
「サバイバルゲームって具体的には何をやるんだ?」

食堂で已む無く中断するはめになった説明を、話題転換も含めて尋ねてみる。

仁志は思い出したように頷いたあと、転校生にも分かりやすいようにと、丁寧な説明を始めた。

「うちの学院は、毎月何かしら行事があるっつーのは、さっきも言ったよな。その中でも、俺が一番好きなイベントが、今月の『サバイバルゲーム』なんだ。お前の言ってたバトロワ的なもんじゃねぇぞ」
「あれは犯罪だからね……」

銃器使用可だなんて、現実に起こったら大問題だ。

この特殊な学院世界と言えど、やはり法は有効なことに変わりない。

「あぁ。サバイバルゲームでは、参加生徒を三つのグループ……〔軍〕に分ける」
「陸海空?」
「違ぇよ!……とにかく、三つの軍に分けるんだ。で、各軍の〔領土〕として学院の敷地も三つに分割する。軍ごとに〔軍旗〕を特定の場所にセットして、それを奪い合うってわけ。三軍で軍旗の奪い合いをして、奪われた軍はその奪った軍に〔制圧〕されたことになり、負け」
「三国志的な感じ?」
「まぁ、そんな感じだな。基本的には制限時間内に多くの軍旗を集めた軍が優勝となるが、膠着状態でどうにも行かない場合は、生存者数の多い軍が勝ちだ」

一通りの説明を聞いていた光だが、最後に出てきた単語に目を見開いた。




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