「平気なわけがないだろう、そのざまで無理をしても虚勢にしか聞こえないぞ」
「本当に平気なんだ、大丈夫」
「おい、強情を張るのも……」
「反省会あるんだろ。一人で立てるし何ともないから、会長は仕事戻って」

想定していなかった態度に、眼を見張る。

意味が分からない。

一体この少年は、何を考えているのか。

こんな姿を目の当たりにして、呑気に反省会など開けるはずがないだろう。

戸惑う穂積に構うことなく、傷だらけの長谷川はゆっくりと立ち上がりかける。

ぶれる軸足が自重に負けるのはすぐで、よろめいた華奢な身を咄嗟に受け止めた。

「無茶をするなっ、そんな身体で立てるわけがないだろう!」
「平気だって言ってる!」

理由が分からないながらも、頑なに頼ろうとしない相手に怒鳴りつけたら、間髪いれずに同じくらいの声量が返された。

足元を見下ろす長谷川の表情は、眼鏡がなくとも長い前髪で遮られ判然としない。

支える腕から無理に逃れられ、拒絶感も露わに投げつけられた。

「俺のことなんて放っておけばいいだろう!」
「っ……」
「忙しいんじゃないのかよっ、仕事あるならそれやってればいいのに!何で、何で来たんだよっ……何で、来てくれたんだよ」

激しい語調は、最後の最後。

頼りなく掠れた。

連絡を寄越したのはお前だろう。

助けを求めたのはお前だろう。

この状況で馬鹿なことを言うな。

自分の身を心配したらどうなんだ。

言い返す言葉は、いくらでもあった。

けれど、そのどれもが言いたい言葉ではなかった。

言える言葉でも、なかった。

元会長方の生徒たちに向けた怒りとは、種類の異なる火が上がる。

青く透き通った熱情は、穂積の理性をいとも容易く蒸発させた。

眼窩の底に剣呑な光りを湛え、無言のまま少年の腕を引き寄せるや、その薄い身体を横抱きにした。

「なっ、ちょっと何するんですか!下ろしてくださいっ」
「……」
「会長!下ろして、下ろせって!」
「仁志、後は頼んだ。俺はこいつを保健室に連れて行く」

驚愕と抵抗がない交ぜになった要求など聞こえぬ素振りで、ぎょっと目を剥く仁志に声をかける。

「お、おう」とぎこちない返事を背中で聞いて、男は腕の中で闇雲に暴れる存在を離すことなく、その場を後にした。




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