◇
すたすたと一人部屋を後にすると、背後から仁志の声が追ってきた。
オートロックの扉が壁を震わせながら、閉まる音を遠くに聞く。
「あれか、お前もバ会長と同類か」
「スイマセンでした。冗談じゃねぇか……あ」
「なに?」
「いや、俺、今日の放課後は役員の仕事あるから、一緒に帰れねぇわ」
心底すまなそうに眉を下げる友人に、光は軽く笑った。
「気にしなくていいよ。俺は平気だし」
「お前はまだ、イジメがどんなもんか分かってねぇから……」
「心配してくれんのは嬉しいけど、少しは信用しろよ。昨日の話でヤバイってことは理解したし、十分注意するからさ。仁志は自分のことに集中しろな」
無問題、と楽観的に笑う光を心配そうに見ていた仁志だが、生徒会の仕事をサボるわけにはいかず、渋々ながら頷いた。
エレベーターに乗り込み、食堂のある一階を押す。
ここまで他の生徒には遭遇していない。
時間はまだ早く、生徒たちが活動するのは、もう少しあと。
光への罵声を警戒した仁志の配慮なのだと、少年はしっかりと気付いていたが、決して口には出さなかった。
「生徒会の仕事って何やるんだ?大変そうだよな」
「おう、物凄く面倒臭ぇぞ。主に行事関係だけど、うちは半端なくイベントが多いから忙しいんだ」
「そうなのか?」
「行事予定表見てねぇのか?毎月何かしらあんぞ」
「えっ?毎月?」
パンフレットは読んだはずだが、行事の欄は飛ばしていた。
どうせ適当なものだろうと、気にもしなかったが、毎月となると話は違う。
授業を潰してまで、何をそんなにやることがあるのだろう。
「じゃあ、今月も?」
「あぁ。来週だな」
「来週って……聞いてない」
どうせなら終わってから転校したかった。
まだ学院に慣れていないのだから、勘弁してもらいたい。
六月の時期に行われる行事は何だろうかと、光は考えを巡らせた。
「体育祭?」
「それは十月だ」
「なら何を……」
目的の階へと到着して、箱の扉がスライドしたことで、光は言葉を途切れさせた。
案内されるまま、学生寮の食堂に入る。
本校舎同様、またもや豪華なレストランの登場に、最早驚くことはあるまい。
黒服が案内したのは、普通のテーブルのようで、少し離れた席で早い朝食を取る生徒が見受けられた。
こちらを見ながらコソコソと何やら話しているが、仁志が細やかに気を配ってくれている事実を感じて、光は頬を緩めた。
「先に注文するか。行事については、食べながら説明してやるから」
「よろしく。えっと、俺は……A定食かな」
「ん。なら、カードをそこのスロットに通せ」
光はブレザーのポケットからシルバーのカードを出すと、テーブル脇に備えられたスロットに、さっと通した。
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