二日目の衝撃。
小さな機械が、体に見合わぬ大音量で朝を告げる。
素早くスイッチを切ると、光はもぞもぞと離れがたいベッドの中で、寝返りを打った。
ふかふかの寝床は華奢な身体を優しく包み、心地よい眠りを提供してくれる。
後、5分。
昨日は散々な一日で、疲れたのは精神の方。
癒されたい欲求が少年を怠惰にさせた。
まどろみの中へと戻りかけた光の意識は、けれど眠りの世界に旅立つことはなかった。
「光ーっ!朝だ、起きやがれっ!!」
バンッと荒々しい音は玄関の扉が開いた証拠。
声の主がズカズカと人の部屋に入って来ていると気配で察するや、光はベッドから飛び降り、サイドボードに置いた鬘を頭に装着した。
色素の薄い見事な髪が、ボサボサの黒に覆われる。
「いつまで寝てんだっ、アホっ!」
「……朝からウルサイ、仁志」
ノックもなしに寝室のドアが開け放たれたのと、光が黒縁眼鏡をかけたのはほぼ同時だった。
表面的にはうんざりといった様子を繕いつつも、内心では危機一髪と安堵の息である。
「さっさと着替えろ、朝飯食いに行くぞ」
ばっちり碌鳴の制服を着崩して着ている仁志は、不良にあるまじきハイテンション。
低血圧かと勝手に思っていたが、間違いのようだ。
「ちょっと待って、すぐ準備する」
なるべく顔を合わせないよう注意しながら、洗面所に向かい顔を洗う。
背後を意識して、光はコンタクトを目に入れた。
長い前髪で気付かれなかったようだが、危なかった。
不意の来訪に、寝起きから心臓が痛い。
鏡に映る自分の姿が完全に『光』になったのを見届けてから、着替えるために寝室に戻った。
仁志は昨日と同じように、勝手にソファに居座ると、液晶テレビをつけて朝のニュースをつまらなさそうに見ている。
ブレザーに袖を通しつつ出て行った光は、純粋な疑問を口にした。
「俺、鍵かけなかったっけ?」
オートロックだったような気もしたのだが、気のせいか。
仁志は得意そうに笑うと、光のボサボサ頭を整えるように手櫛を入れる。
「生徒会のゴールドカードは、どの部屋のロックも解除出来んだよ。お前、少しは髪どうにかしろよ」
「プライバシーも何もないんだな……。いいんだよ、これで」
前髪を触られそうになった光は、慌てて仁志の手を外させた。
シルバーリングがコツンっと爪にぶつかる。
「けど、それじゃ前見えねぇだろ。あれか?不思議系狙いか?残念ながらヲタクが着地点だぞ。ドンマイだヲタク」
「さて、一人で朝ごはん食べに行こうかな」
「俺が悪かった、もう言わねぇから先に行くなっ!」
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