潰す方法。




SIDE:生徒会

「早かったね……って、どうしたのその格好っ!」

彼が部屋に入るなり、自分のデスクで仕事をしていた友人が、驚いたように声を上げた。

穂積はネクタイを緩めると、シミだらけのブレザーを脱ぎ捨てる。

応接用のソファに投げ出されたそれを手にした友人は、会長の服から漂った香ばしい匂いに、端整な面をぎょっとさせた。

「これ、お醤油じゃないか。あー、このシミもう落ちないよ?」
「知るか」

不機嫌極まりない返答に、いったい何があったのだろうかと小首を傾げる。

拍子に、背中まで伸びた甘栗色の髪が、さらりと揺れた。

麗しい中性的な美貌が、事態の説明を求めている。

天井に到達するほどの大窓からは、午後の温かな日差しが差し込み、その前に置かれた穂積の執務机に、陽だまりを作っていた。

どさりと革張りの椅子に身を沈めた男は、すぐさま机に積み上げられている書類の山を漁り出す。

「何があったのか知らないけど、顔についたお醤油をどうにかしてからにしなよ。いくら穂積がカッコ良くても、流石に笑え……ううん、なんでもないっ、間違えたっ!」

つい本音を零してしまった相手に、チラリと目を投げた穂積は、慌てふためく姿に溜め息をついた。

「……綾瀬、転校生の情報はどこだ」
「転校生?何か問題でもあったの?」
「いや、確か『長谷川 光』という名前だったよな」

自分のファイルを確認した綾瀬は、最近加えたばかりの一枚の紙を取り出した。

綾瀬 滸。

美形ばかりが集う碌鳴学院でも、生徒会副会長を務める彼の美貌は、穂積に勝るとも劣らない。

会長と系統は違うものの、美人と称される彼は、優美な所作で穂積に資料を差し出した。

「はい。写真を見るなり、興味ないって言っていた君が、今更どうして?」
「……さっき会った」
「長谷川くんに?」

紙面に目を落とす男は、平凡極まりない対象の経歴を読み終えると、綾瀬に突き返した。

「学力優秀ってだけで、他は普通だな。見た目においては劣っているくらいだ」
「まだ会ったことはないけど、この髪と眼鏡はやめた方がいいかも知れな……と、今のなしね」
「お前、前から思っていたが、それワザとか?」

隣接する給湯室からお絞りを持ってきた綾瀬は、「まさかっ」と首を大きく振った。

「君と違って、僕はそこまで根性悪くないから。それで?長谷川くんがどうしたの」
「……この醤油を、俺がなぜ拭き取りもせず生徒会室まで来たと思う?」
「気に入ったから?」
「しだいに肌が荒れてくる錯覚を覚える液体を、気に入るわけがないだろう」

マイペース極まりない友人に眉根を寄せた男は、乾き始めた醤油を綺麗に拭った。

「アイツの敵を増やすためだ。長谷川 光のな」

学院において自分がどれほどの影響力を有しているか、穂積は正確に理解していた。

額から無様にも醤油を滴らせている己が、他の生徒の目に入れば様々な憶測を呼ぶだろう。

そして食堂で起こった出来事と結びつき、あの場に居なかった人間までも、光の暴挙を知ることになる。




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