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穂積や仁志がまるでアイドルのように騒がれていたのも、彼らを見て頬を染めていた生徒がいたことも、合点がいった。
仁志が先ほど言った『犯される』云々も、つまり真実。
しかし、これは……。
珈琲に口をつける仁志は、光のショックを横目で観察している。
顔の半分は前髪や眼鏡で分からないが、少し青ざめていないだろうか。
「け、けどさっ。それって顔がいいやつ限定だろっ!?なら俺は関係ないよっ」
「アホ。うちのイジメはすげぇ陰湿なんだよ。男が何をされたら心が折れるか、よく知ってる。そりゃあ、警戒しまくれとは言わねぇ。でも、そういうことがイヤガラセの一端として行われているってことは、覚えとけ」
「そんな……」
イヤガラセで男を犯すだなんて、光にはとても想像がつかない。
攻撃をしたいとしても、そんなエグイ真似など絶対にしないだろうし、第一に思いつかない。
ストンッと力が抜けたように膝をついた光に、仁志はきつい眼差しを向けた。
「俺もなるべくお前の傍にいる。が、十分に注意しろよ?リアルワールドで喧嘩出来んなら、ぶん殴って逃げろ」
「と、当然っ!!」
「お前はバ会長に本気で目ぇつけられた。アイツが自分から誰かの名前を聞くなんて、今までなかった。周りの人間すべて、敵だと思え」
押し殺すように潜められた仁志の声。
一欠けらさえも見当たらない、冗談の色。
穂積の紳士的な笑顔と、非道な眼が蘇る。
あの時、キレなければよかった。
後悔しても後の祭り。
インサニティの売人は、いつになったら探し出せるだろうか。
潜入捜査が、一日目にして躓いたことを、光はゆっくりと理解したのだった。
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