新たな幕開け。




「そうか」
「うん」

修学旅行から学院へと戻って来た翌日、一日の休暇を設けられているにも関わらず、光は本校舎を訪れていた。

二年生がいないだけで、随分と校舎は静かな気がした。

人の少ない授業中を狙って、扉を叩いたのは保健室だ。

学院を離れた三日の間に起こった出来事を、一つ残らず語り紡ぐ間、白衣の男は黙って耳を傾けてくれた。

上諏訪の名所を回ったこと、夜の散歩で土手から転げ落ちたこと、仁志にすべてを告白したこと。

何もかもを言葉にした。

未だに耳に残る、仁志のセリフ。


――俺とお前はダチだろーが


きっと忘れることはないだろう、セリフ。

嘘偽りに塗れた己を受け入れ、認めてくれた瞬間、気が遠くなる思いがした。

眩暈にも似た衝撃で歪んだ視界は、仁志の真っ直ぐな瞳だけは滲むことなく映し出していた。

願い続けた思いが、最高の形で実を結んだ事実に、鬱々と悩んだ己が救われた気持ちになる。

最後に木崎が背中を押してくれなければ、きっといつまでも告白など出来なかっただろう。

いつまでも、友達になれなかっただろう。

溢れる感謝と歓喜を制御して、なるたけ冷静に話す少年の眼は、胸の内を雄弁に物語っている。

「千影」

細く開いた窓から、室内に微風が流れ込む。

遮光カーテンがゆらりとはためく様を眺めていたら、聞き終えた木崎が名を呼んだ。

「よかったな」
「うん……武文、ありがとう」

くしゃりと鬘の髪をかき回されて、今日は素直にお礼を言えた。

それに相手は苦笑する。

「俺が何かしたわけじゃない。仁志 秋吉と友達になれたのは、お前自身の努力だ」
「努力なんて、してないよ。俺はただ、仁志に嘘ついて萎縮していただけだ」
「けど、ビビりながらも立ち向かったからこそ、全部話せたんだろ?努力したんだよ、お前は」
「そうなのかな」

あれだけ迷い続けた手前、与えられた言葉を素直に受け取るわけにはいかなかったけれど、木崎はもう一度だけ頭を撫でてくれた。

どこか、満足げな表情で。

「しっかし、あの不良くんに調査員だって打ち明けたのは、正解だな。こっちの調査に協力してくれるんだろ」
「生徒会で独自に調べた情報は流してくれるって」
「リークしていいのか?お前のこと、他の役員は知らないんだよな」

仁志以外に正体を話すつもりのない千影に配慮して、仁志はこちらの秘密を誰にも漏らさないと約束してくれた。

情報をリークしている事実が発覚した場合、事情を知らない生徒会メンバーからすれば、仁志の行為は不審極まりないはずだ。




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