無実の人間に拘泥して調査の進行が妨げられるのを防ぐのは勿論、何より仁志は千影への疑念を晴らしておきたかった。

だから、一分一秒でも惜しい状況を承知で、役員たちを集めたのだ。

「俺のことが信じられるなら、俺の言うことも信じて下さい」

三対の訝しげな眼に怯まぬよう、両の拳を強く握り込み、頭を下げた。

無茶苦茶だ。

都合が良すぎる。

けれどこれしか言えない。

千影はまだ、仁志以外にすべてを話すつもりはないのだから。

心苦しさで奥歯を噛み締めたとき、その声が室内に響いた。

「うん、分かった」
「え?」

あっさりとした応答に、思わず顔を上げる。

ぶつかったのは、甘栗色の髪が美しい綾瀬の微笑。

自然な表情で紅茶色の瞳を和ませる相手は、場に流れる不穏な気配を拭う。

「言ったでしょう?僕は仁志くんのことを信じているから、君がこれから話すことを追求せずに、信じるよ」
「綾瀬先輩……」
「みんなは?みんなは仁志くんのこと、信用できないの?」

綾瀬の問いかけに、緊張した空気が一瞬にして解けるのを感じた。

呆れた風にも許容するようにも受け取れる、逸見の嘆息。

歌音が小さな微笑を零す。

強い視線にはっと目を合わせれば、穂積がこちらに見合うほどの真剣な表情で言った。

「話せ。お前への信頼から、俺たちはお前の話を信用する」

仔細を聞かずとも。

熱い何かが胸の奥から湧き出す。

先ほどとはまったく異なる思いで、仁志は拳を握る。

早く。

早く千影も、信じられればいい。

仁志だけでなく、真っ直ぐな瞳を持った彼らのことを、信じられればいい。

そうすれば、千影の胸に残る罪悪感は、完全に消え失せるはずだ。

罪悪感を覚えているのは、仁志に対してだけではないのだろう。

「光は、売人じゃない」

仁志は決然とした瞳でもって、伝えるべきワンフレーズを音にした。




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