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いつもと変わらない、やり取り。
知らない人間が聞けば、口喧嘩をしていると思うかもしれない。
けれど二人の間に流れる空気は、距離の近しい者でなければ生まれぬものだ。
何も、変わらない。
真実を話す前と、何ら変化はない。
あるとすれば、彼に対する罪悪感が薄れ、鬘も眼鏡も外せるようになり、今みたいに危なかった話ができるくらい。
大きなようで、その程度のこと。
基本的には以前のまま。
予想通りだ。
仁志は、変わらない。
話したところで、態度を激変させる男ではない。
分かっていたけれど、口元が緩むのを止められない。
「なに変な顔してんだ」
「……仁志ほどじゃない」
「美形顔によく言ったな、あぁ?」
出会ったばかりのころは、こうして凄まれれば怖いと思う気持ちもあった。
今はもう、笑顔で応じられる。
何も変わらない。
特別な変化などない。
いつものように、普段のままにいてくれる男と、千影は友達になったのだ。
「ったく……。考えても分かんねぇことでぐだぐだやってんな。明日は最終日なんだから、面倒なこと忘れて楽しめよ」
「ははっ」
ふいと目を逸らして言われた気遣いに、少年は笑い声を上げた。
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