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拒絶されると恐れていたはずだし、激怒されることも予期していたはず。
受け入れたこちらを見る目は、信じられないと見開かれていた。
何をそんなに驚くのか。
このまま何も話さずにいることだって出来ただろうに、千影は打ち明けることを選択した。
正面から友達になりたいと、言ってくれた。
これで嬉しくないはずがない。
受け入れないはずがない。
長谷川 光は消えてなどいない。
ただ、千影という形で自分の前に現れただけのことだ。
感情の整理を終えると、仁志は体を起こした。
すっかり冷めたテーブルの上の緑茶をすすり、ソファに座る。
「しっかし、探偵って……」
次に考え始めたのは、与えられた情報についてだった。
只者ではないと思っていたが、まさか探偵事務所の調査員だとはまったくの予想外である。
しかも、浮気調査や失せもの探しなどを行う探偵会社ではなく、実際に事件に携わる本格的な調査組織の一員。
ドラッグ関連の依頼を扱っていると言っていたから、恐らく警察かマトリと繋がりがあるのだろう。
本名も分かったことだし、その線で調べれば仁志ならすぐに裏を取れる。
やるつもりはないが。
兎にも角にも、やけにインサニティについて詳しかった理由は、これで解明された。
ドラッグを追って学院に潜入しているのなら、彼の売人説は崩れる。
問題は、これをどうやって生徒会メンバーに説明するか。
彼らならば話しても問題ないと思うのだが、千影が仁志にのみ正体を明かしたことを鑑みると、無理かもしれない。
そもそも、千影は自分が売人候補として注意されていると知っているのだろうか。
真実を聞いてしまえばすべて納得できても、何も知らない生徒会役員は「長谷川 光」の不可解な点を気にかけている。
無実を証明するために、懸命になっている。
さてどうしたものかと、仁志はテーブルの上の壊れた鬘と眼鏡を見据え。
ふと気がついた。
「……あいつ、アノ格好のまま出てったのか?」
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