◇
シャープに整った造作は、ともすれば怒っているようにも見える鋭さが印象的だと知っている。
なのに今、彼の表情から受け取れるのは、確かな優しさと温かさなのは、なぜ。
「アホ」
「は……?」
「お前はマジでアホだ。このドアホッ!」
「痛っ!」
乗っていただけの拳が振り下ろされ、頭頂部にジンッと痺れが走った。
抗議をしたくとも、予想していなかった展開に混乱するばかりで、千影は反応に困ってしまう。
痛みを堪えて見上げるばかりだ。
大袈裟なほど大きなため息をついた男に、わしゃわしゃと両手で髪をかき回され、「わっ」と顔を俯ける。
「考え過ぎなんだよ、てめぇは!」
「ちょっ、仁志おいやめろって」
「真っ直ぐとか、真っ直ぐじゃねぇとか意味わかんねぇし」
大きな掌がずっと隠してきた茶髪を乱す。
鬘ではない真実の髪に、触れる。
やめろと言っても正面の男は無視。
最悪のパターンまで想像していた身としては、仁志のリアクションから何を汲み取ればいいのかさっぱりだ。
千影は頭の上の仁志の手首を捕まえ、もう一度顔を上げた。
大人しく手を離した仁志が言った言葉は、千影のすべての動きを停止させるほどの威力があった。
「つーか、なんでお前が真っ直ぐじゃねぇんだよ」
ぶつかった視線に、呼吸を忘れる。
彼の両手首を持ったまま、フリーズを起こす。
彼は何と、言った。
硬直したこちらの顔がよっぽど間抜けだったのか、仁志が小さく頬を緩めた。
どうして、そんな顔をするのだ。
「お前、頭悪ぃな」
「……」
「学年主席のくせに、何でこんなことも分かんねぇんだか」
「……」
「俺とダチになりたかったんだろ?で、悩んで決めたんだろ?ドラッグ捌いてないっていう確証もない俺に、全部話すって」
問われたままに、コクンと首を縦に落す。
仁志は一旦天井を仰いで、それから彼らしい突き刺すほど力のある双眸で千影を射抜いた。
「そんだけ真っ直ぐにぶつかってるくせに、どうして自分のことを真っ直ぐじゃねぇって思えんだよ。どう考えても真っ直ぐだろっ!」
心臓が、止まるかと思った。
抱える罪に。
仁志との繋がりに。
己の内側に。
真っ直ぐにぶつかったからこそ、悩んで、傷ついて、結論を導き出せたのだと。
言う、男。
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