それなのに素知らぬ顔で別人を貫いていた自分を、友達と思ってくれていたのだ。

光は心を呑み込む罪悪感を振り払った。

今やるべきは、仁志にすべてを話すことだけだ。

余計なことに気を回すな、集中しろ。

真実を、告げろ。

「俺は、長谷川 光じゃない。でも、キザキでもないんだ」
「……」
「俺の名前は、千影。探偵事務所の調査員だ」
「探偵、事務所……」

動揺が色濃く現れた相手の様子に構わず、千影は首肯した。

「取り扱う事件は、主に麻薬や覚せい剤関連で、俺は三月の初めから「キザキ」と言う偽名を使って、あの県の不良グループで潜入捜査をしていた」

広域指定暴力団傘下の組が、不良グループのヘッドである後藤にドラッグを流していた一件だ。

キザキとして潜入した千影は、三ヶ月の時間をかけて証拠を掴み依頼を達成したのである。

千影は衝撃で見開かれた仁志の眼を、ひたと見据えたまま先を続ける。

「そして、六月の頭から俺は、新しい調査先に入ることになった。ある新種のドラッグの売人が潜伏していると目される場所で、ドラッグの温床になっている可能性のある、全寮制男子校の碌鳴学院に……「長谷川 光」として、潜入調査に当った」
「おい、それってまさか」
「ドラッグの名前は「インサニティ」。ドラッグには珍しい錠剤タイプで、強い催淫作用を及ぼす。今、学院で流行しているものだ」

七夕祭りでは生徒三人が強制的に服用させられ、キャンプにおいては霜月が会長方に呑ませ自身も大量に所有していた、あのセックスドラッグ。

自然と険しくなる男の表情に、淡々と事実を説明する声が震えそうになった。

情けない。

萎縮してどうなる、罪悪感にばかり浸っていたら、何も変わらないと言うのに。

それが嫌だから、こうして前に進もうとしているのに。

頼りない覚悟を必死に保ちながら、千影はもっとも言わなければならないことを舌に乗せた。

「……俺は、前回の調査先にいた仁志のことも、疑っていた」

このときばかりは、真っ直ぐ彼を見つめ返すことも出来なくて、視線が足元に落ちる。

空気を通して伝わる相手の動揺に、拳を握り締めた。

「学院から離れた街の、ドラッグが捌かれていたグループにもいて、インサニティの売人が潜伏している学院にもいたから、どうしても気になって……。俺は調査のために仁志の傍にいようと思った。仁志を騙して、仁志の気持ちを利用して、ずっと疑いながら傍にいた」
「ならどうして、今になって俺に話すことを決めたんだよ」
「……」
「無言が認められると思うな」

容赦のない追求に、抗うつもりはなかった。

ただ自分の本音を語る恐怖に、僅かの間腕を引かれてしまったのだ。

乾いた唇を湿らせ、強張りを解いた。

「仁志と、本当の友達になりたかったから」




- 420 -



[*←] | [→#]
[back][bkm]



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -